クリニックの経営者は、こうした動向も踏まえた上でパートスタッフを採用する必要があるが、パートスタッフに限らず、雇用条件に関する経営者の認識は他業種に比べるとまだ甘いと感じることが少なくない。現在の雇用情勢にそぐわない対応をするケースが後を絶たず、そうしたクリニックはパートでも入れ替わりが多い傾向がある。
特にパートスタッフの有給休暇付与に関しては、今回紹介した事例のように、「希望時に休みを取ることができるのだから、有給など使う必要がない」と考える院長もいる。だが、クリニックのパート採用に応募してくる人は、学校行事や自宅の用事などの際にきちんと有給休暇を取得できることを重視する人も少なくない。
普段から有給の取得を促す
小規模クリニックでは、余裕を持った人員配置をすることは経営的にも難しいのが実情だが、業務に支障が出るから有給休暇は取れないというのでは、職員を安定的に確保していくことは難しいだろう。取得する場合にいろいろ制限を設ければ、長く勤務しようとする意欲がなくなり退職につながりやすい。その穴埋めのため、また一から採用し、育てていくことを考えれば、休暇を上手に取得してもらい働きやすい職場に変えていくことを考えた方がよいだろう。
パートの有給取得を率先して進め、働きやすい状況を作り出すことができれば、人材募集をする場合にもその点を強調でき、応募者が増える可能性が高くなる。「パートだから有給休暇は要らない」と考えがちだが、常勤職員と比べて社会保険などの人件費を節約できているのだから、その分、パートが有給休暇を取得しやすい環境を整えるという考え方があってもいいだろう。
パートスタッフに対しては、6カ月が過ぎれば有給を利用できることを採用時に説明しておくのが望ましい。中には、遠慮して取得しないスタッフも出てくるので、業務に比較的ゆとりがある時期に取得を促している診療所もある。普段から取得を勧めておけば、繁忙期や急な欠勤者が出た場合などに協力を得やすくなることもあり、運営上プラスになりやすい。
小規模クリニックの労務問題は発生頻度が高いのが現状である。パートスタッフに限らず、働きたい人材は何を求めているのかしっかり把握し、プラスになることは導入を検討することを勧めたい。遠回りのようだが、結局そのことがスタッフの定着、さらには患者の信頼、増収にもつながるといえるだろう。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)
原田宗記(株式会社宗和メディカルオフィス代表取締役)●はらだ むねのり氏。1957年生まれ。医療法人の事務長、部長を経て1996年、宗和メディカルオフィス設立。医療機関や介護施設の開業、運営コンサルティングのほか、診療所の事務長代行業務を手掛ける。医療法人役員として医業経営にもかかわる。