確かに、使用者側には有給休暇の「時季変更権」があり、休暇取得が事業活動の正常な運営を妨げる場合は、取得日を変更する権利がある。ただ、これは、人員調整などを行ってもなお、休暇取得により運営に重大な支障が生じるようなケースでなければ認められない。

 今回のケースでは、繁忙期とはいえ、パートスタッフが1人休んでも何とかカバーできる状況だったため、時季変更権の行使は難しいと考えられた。お子さんの受験の付き添いという事情を考えても、Aさんに時季変更を求めるのは難しい。結局、院長はAさんの有給取得を認めることとなった。

 この件はそれで決着したが、院長とスタッフの間には心理的なしこりが残ることになった。Aさんの事例を通じて、院長がパートスタッフの有給休暇取得を好ましく思っていないことが明らかになったからだ。

 「院長はパートスタッフの働き方のことをあまり考えてくれていない」という会話が、職場で交わされるようになった。スタッフたちとの間に隙間風が吹き始めたことは院長も理解したようで、職場のモラールダウンを防ぐには有給休暇をきちんと取れるようにすることが大切だと考えるに至った。それまでも一定の配慮はしてきたが、年間を通じて繁忙期とそれ以外の時期を勘案して休暇取得を進めるなど、対策を講じるようになった。

今回の教訓

 スタッフ10人未満、特に開業して5年未満の小規模クリニックでは、夕方の遅い時間帯や常勤職員の有給休暇取得(消化)への対応、繁忙期の対応を含めて、パートスタッフの活用が欠かせない。そのためには、特に主婦の人たちを上手に採用することが必要となる。

 子どもの学年が小学校低学年を過ぎれば、働ける時間も広がる。学費など収入も必要となるので、採用できれば長く働いてくれることが多い。

「収入を増やしたい」と申し出るパート職が増加

 近年、パート職員の働き方に変化が見られるようになった。クリニックでは勤務調整などをしやすいように複数のパートスタッフを採用することが多く、扶養範囲内ギリギリまで働きたくてもできないという人が少なくない。そのため、ダブルワークを求めて応募してくる人材が増えている。また、当初は一定の収入(勤務時間)で雇用契約を結んだものの、「収入を増やしたい」と申し出るケースも目立つようになってきた。

 パートスタッフの意識として、「それなりに働ければ」ではなく、目的をより明確にして働くケースが増えている印象を受ける。雇用条件面でも、月の具体的な収入額や勤務日時を示して求職する人が増えた。ネットで他のクリニックや派遣会社の雇用条件と比較することも多く、条件面が満たされないと試用期間中に自ら退職してしまうこともある。