コンサルタントが打刻時間についてスタッフに確認したところ、残業になりそうだと院長夫人が早く帰そうとする態度が露骨なので、プレッシャーが強く、わざと超過勤務の発生時間まで残るようなことはとてもできないとのことだった。

 パートでも、納得できない賃金は一円たりとも払いたくないという経営者側の意識が透けて見える。経費節減はもちろん大切だが、賃金をできるだけ払いたくないという姿勢が露骨に表れると、スタッフがだんだん働きづらくなる。多少のことは大目に見つつ、行き過ぎれば注意するという考え方もあるが、そうはいかないようだった。

人材派遣会社からも距離を置かれ…

 職員としては、時給が高いわけではないので残業代を削られると稼げない。経営者側は、少しでも早く帰して残業代を削りたい——。お互いの思いが噛み合わず、それまで以上に労使間がギクシャクするようになった。

 結局、1年も経たないうちにBさん、Cさんから退職願が出され2人とも辞めることになった。せっかく仕事を覚えた段階での退職で、もったいない話だった。賃金などは同じ条件で、再度、職員を募集したが、今度は応募者は未経験者ばかりで、戦力になるような人材の応募がない。結局、人材派遣会社からの派遣でつなぐしか方法がなかった。

 だが、「時給が高い」「使えない」ということで紹介派遣スタッフを何度か変更し、将来の採用につなげられるような人材をなかなか決められない。「これだけの時給を支払うのだから、それに見合う仕事ができて当然」という考えが強すぎたのだろう。派遣会社も、ハードルが高すぎると感じて担当者が距離を置くようになった。結局、自院でスタッフを採用するまでに長期間の派遣期間を要し、派遣会社への手数料も当初の想定を超える結果となってしまった。

今回の教訓

 病院を中心とした医療機関の人材派遣(紹介)会社の活用や社会情勢の変化もあって、医療機関、特に診療所のスタッフの人材確保は年々厳しくなる一方である。首都圏では5、6年前までは、新規開業ともなれば医療事務で10〜20人、看護師でも3〜4人の応募があった。新規開業のオープニングスタッフは比較的集めやすいものだが、今ではそれも苦労する。中途採用ではさらに厳しい。