特に、パートを含めスタッフ10人未満の小規模なクリニックでは、収益状況が良くても、院長の考え方次第で雇用条件に大きな差が出やすい。雇用条件が見劣りするために応募者が少なくなっているケースはしばしば見られるが、経営者側にそうした認識がなく、採用難の時代にもかかわらず「使ってあげている」という感覚のこともある。

 今回のケースのように、退職者が出て次の人材を探す場合、相場より低めの賃金で雇用しようとすれば、応募者も少なくなりやすい。以前の勤務先より時給が低いとなると、それなりの理由がなければ応募してこない。だから経験の少ない人の応募割合が増える。他より高めの賃金であれば、忙しくても簡単には退職につながらない。安いと感じる賃金は、転職の理由になりやすい。

 求職者の中には、賃金だけでなく、社会保険や年金を重視する人も増えている印象だ。厚生年金加入を求める人は多く、国民年金という説明を受けると応募を辞退することもある。パート職員でも、雇用保険などに加入できる時間で勤めたいと要望する人が目立ち、加入基準に満たない勤務時間でありながら、加入を条件として交渉してくる人もいる。もちろん仕事の内容も大切だが、社会保険への加入なども含め、上手に収入を得られることが働きやすい職場の条件となっている。

 「仕事のできないスタッフが多い」と嘆く院長は少なくないが、クリニックに限らず、優秀な人材というのは一部の人に限られるだろう。優秀な人材を求めて募集を繰り返すのではなく、それなりの労働条件を整えた上で、今いる人材を育てていく方が効果的という考え方もできる。「お互いに一緒にやっていこう」と思う気持ちがあれば仕事も続いていくし、院長がそうした意識で接していれば、緊急時など院長が困ったときにスタッフが手助けしてくれることもある。人材が定着しないクリニックでは、労働条件を含め「処遇」面に問題がないか、今一度確認してみることをお勧めしたい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
原田宗記(株式会社宗和メディカルオフィス代表取締役)●はらだ むねのり氏。1957年生まれ。医療法人の事務長、部長を経て1996年、宗和メディカルオフィス設立。医療機関や介護施設の開業、運営コンサルティングのほか、診療所の事務長代行業務を手掛ける。医療法人役員として医業経営にもかかわる。