トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及によって、クリニックでもスタッフ間の連絡ツールとして活用するケースが見られるようになった。簡単な連絡事項であれば、一斉にグループ内全員に連絡できるので、使い方によっては利用価値が高いと考えている職場も少なくないようだ。

 しかし、現在は企業や学校などでSNS利用をめぐるトラブルが多く見られるのも事実で、これは医療機関も例外ではない。グループメンバーの悪口や画像の公開など、オフィシャルとプライベートの線引きが難しくなるのが職場SNSの問題になっている。

 今回紹介する内科・小児科のAクリニックは、数年前にメディカルビルで開業した。駅から近く、ビル共用ながら駐車場が確保できていることもあり、受付開始から診療時間終了まで1日中待合室が混み合う状況が続いていた。

 職員は正職員2人(看護職・事務受付各1人)のほか、週2〜3日程度のシフトで勤務するパート職員5人が、曜日・時間帯に応じて人数を調整しながら業務を行うこととなっており、家庭の都合による欠勤や遅刻の影響でシフト調整もしばしば必要になっていた。

プライベートな内容を書き込むようになり…

 院長は、勤務シフトのとりまとめは正職員に任せており、基本的には職員間の相談で決めていることを知っていたものの、具体的な方法は把握していなかった。しかし、ある日の診療時間終了後、パートの看護職員Bが院長を訪ねてきて「自分だけが職場グループのSNSで仲間外れにされ、この事態が解消されるとは思えない。居心地が悪いので退職したい」と告げたことから、初めて職場でのSNS利用の状況を知ることになったのである。

 院長は、Bが退職を決意するに至った理由や、これまでの経過について本人から詳しく話を聞くこととした。Bによると、職員全員に一度に連絡できることから、2年ほど前よりSNSを遅刻・欠勤の連絡やシフト調整の際に活用してきたとのこと。実際に、そのおかげで必要な勤務人数を確保できたことが何度もあるし、通話せずに連絡できるため、公共交通機関での移動中でも使えるなど、みんなで便利な連絡方法として使っていた。

 Bとしては、「SNSはプライベートなコミュニケーション発信の場」と考えており、職場でグループを作ることには若干抵抗があったのだが、自分はパート職員でもあるし、欠勤やシフト調整で周囲に迷惑をかけることもあるため、「他の人たちが便利で使いやすいのであれば」と割り切って使っていた。

 しかし、単なるグループの連絡用として使用していたはずが、次第にプライベートとの境界線があいまいとなり、職員それぞれの日常での出来事をつづったり、クリニック内で撮影された画像を共有したりするようになった。