そんな時、ある小児患者の母親に関する悪口が短く書き込まれたことをきっかけに、Aクリニックに来院した患者やその家族に関する話題がSNS上に見られるようになった。Bは、もしそのことが何らかの形で患者や住民に知られたら、マイナスの口コミが広がるのではとの懸念を抱き、「患者さんに関する内容はやめたほうがよいのでは?」と書き込んだ。

 次の出勤日、Bはクリニックの雰囲気が何となく違っているように感じた。それ以降は職場グループSNSに患者に関する話題が見られなくなり、Bも思い切って伝えてよかったと感じていたのだが、やがてそれはBの思い違いだったことがわかる。

 クリニックでは、B以外の他の職員全員をメンバーとする別のグループSNSが作成され、そこでは業務上の連絡だけでなく、患者や家族、Bを含むクリニック関係者の悪口が多く書き込まれている状況だった。どうやら、「患者などの内容の掲載をやめるように」というBの発言を不快に感じた正職員の1人が率先する形で、B以外で新たなグループを作るに至ったらしい。Bだけを仲間外れにしている状況にいたたまれなくなった同僚が、Bにこっそり打ち明けたことで判明した。

院長が慰留するも退職の意思は変わらず

 他の職員は2つのグループSNSを使い分けているようで、Bとしては、必要な事務連絡は従来通り届くので問題はないのだが、いじめに似た周囲の態度や公私の線引きができない事態にあきれたこともあり、退職したいと申し出たという。

 院長は、Bが優秀な人材であり、SNSをめぐって賢明な発言をしてくれていたこともあり、何とか翻意してもらえないかと説得したが、既にモチベーションが萎えたBの意向が変わることはなく、そのまま1カ月後に退職となった。

 急な退職で業務多忙が心配されたが、幸いなことにあまり時間を空けずに人材紹介会社から派遣職員を受け入れることができた。派遣職員は医療事務の経験者で、クリニックに慣れた頃からBと同様の業務を任せていて、派遣期間満了時には正式にパート職員として採用したいと打診するつもりでいる。

 ただ、院長はBから退職の申し出を受けるまで、自院の職員間でトラブルが生じるという事態は想定しておらず、トラブル予防策の必要性を痛感することとなった。職員の様子のちょっとした変化にも気付けるよう、より一層の気配りが必要だと考えている。

今回の教訓

 医療機関の業務上のSNS利用が増える一方で、使用ルールを策定していないケースも散見される。放置していると、Aクリニックのように業務上のSNS利用で公私の区別がつかなくなり、スタッフのプライベートな事柄や患者の情報が書き込まれることも考えられる。患者の情報が万一、外部に流出すると、患者本人に迷惑が掛かる上、スタッフや院長も厳しい批判を免れない。