Illustration:ソリマチアキラ

 今年も新人が入社した。この若者たちを立派な薬剤師に育てなければと思うと、身が引き締まる思いだ。

 思い起こせば、ボクが薬局を始めた頃は、薬剤師が副作用について患者に説明することすら難しい時代だった。「△△薬局は薬剤情報提供書(薬情)に副作用を記載している」ことが業界誌の記事になっていたくらいだ。それが今や、薬剤師は患者にとって必要ないと思われる薬を見つけて医師に進言しろ、というのだから隔世の感がある。

 この20年ほどの間、薬局と薬剤師の仕事はすごいスピードで変化を遂げた。“調剤薬局”という業態を作り上げ、そこで薬剤師が何をすべきかを模索し、自分たちの仕事を作り上げてきた。

 とはいえ、これらの仕事は、残念ながら調剤報酬によって誘導されたものがほとんどだ。特に、2016年度と18年度度の調剤報酬改定は、15年に厚生労働省が示した「患者のための薬局ビジョン」を具現化するために行われた。 調剤報酬改定に対しては、なぜ毎回こんなに苦労しなくてはならないのか、なぜ大手チェーンをあれほどまでにたたくのかなど、思うところはある。しかし、薬剤師らしい仕事の幅を広げるために、対人業務に対し手厚く点数を配分したことは歓迎すべきだと思う。

 これまでも当社は、点数が取れるようにがんばってきた。こう書くと「点数を取るために仕事をしているのか」と言われそうだが、厚労省がやれと言っていることは、患者にとって、そして国にとってメリットのあることだ(と思う)。現状維持に安穏としている薬剤師は多いが、点数が付けば新しい仕事にも取り組まなければという気になるものだ。

 当社の改定対応は、まず社内研修会を開き、個別の点数が意味するところを議論した後、店舗ごとに目標を立て、どう取り組むかを考えてもらっている。目標を掲げることで、2年目には様々な施設基準をクリアできるようになる。つまり、厚労省が求める機能を備えた薬局に、1年かけて育てるわけである。

 しかし、ふと最近、考えたことがある。このような組織マネジメントは、より高い点数を算定できる薬局をつくる上では有効だ。しかし、薬学的見地に基づいた、より良い医療サービスを提供できる薬剤師を育てられるかというと、必ずしもそうとはいえない。求められた業務をそつなくこなす薬剤師を育てることはできても、患者のことを考えて自ら行動を起こすような薬剤師は、それだけでは育たないからだ。組織を動かすことと、医療者を育てることは、必ずしも一致しないのである。

 幹部スタッフは、しばしば「(部下に)指示しても、ちっともやらない」とぼやく。しかし、部下は「やらない」のではなく、「やれない」のだ。やれるようにするのが上司の役割であり、指示しただけでできるのなら上司は要らなくなる。

 「やってみせ言って聞かせてさせてみて褒めてやらねば人は動かじ」。海軍軍人の山本五十六が遺した名言だが、まさにこれしかない。ただ最近は、少しくらい褒めても、ちっとも動かない。褒めて褒めて褒めまくることが肝要だ。

 と、大上段に構えるボクに、幹部スタッフが一言、「じゃあ、社長がやってみせてくださいよ」。えっ? 「ボクがやったら君の仕事が無くなっちゃうよ」と返そうとしたが、ぐっと飲み込んだ。とほほ、まずはこの人から育てねば。(長作屋