今回の職員B子は中途採用で、半年間しかA診療所で働いていない。症状から推察すれば、急激な力の作用が加わったことによるギックリ腰ではないし、特に重量物を取り扱う仕事を続けていたわけでもない。加齢という基礎要因がある中で、立ち仕事が続き腰痛が誘発されたと考えることができる。

 もっとも、労災保険の適用となるか否かの判断は経営者がするものではなく、管轄の労働基準監督署が勤務状況などを考慮して行うものである。労災保険の根拠となる労働者災害補償保険法には、第1条において「労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする」と定めており、労働者保護という考え方が根底にある。

「労災隠し」と疑われないよう注意を

 従って、「これは労災保険の適用ではないか」と職員から申し出があれば、事業主はそれについて申請をしなければならない。これを無理に、労災保険ではなく健康保険を使うことを促すと、建設業界ではかなり問題となっている「労災隠し」と疑われる可能性がある。労災隠しは労働安全衛生法第100条などにおいて罰則もあり、労基署としても厳しく指導せざるを得ない。

 とはいえ、今回のケースのように腑に落ちない場合には、申請の前にまず当該職員を連れて、管轄の労基署に足を運ぶとよいだろう。実際の入職日や具体的な仕事内容などを労基署の監督官に詳細に伝えて、対応方法を仰ぐわけである。このプロセスを経ていれば、労災隠しということにはならない。

 腰痛のケースであれば多くの場合、労基署の監督官から、労災保険の適用となる要件について説明がなされ、たとえ労災が適用されなかったとしても職員は納得して帰路につくものである。ただし、今回のケースでは十分な休憩が取れていなかったということなので、休憩時間中に働いていたのであれば、その分に対する割増賃金の支払い状況を確認されるといったことは覚悟しなければならないだろう。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。