A診療所で勤務している20歳代の職員B子。見た目は派手な印象を受けるが、仕事はしっかりとやってくれているのでとても助かっている。ところが、先日、ある職員がB子の腕にタトゥーがあることを教えてくれた。更衣室で着替えているときにB子の腕にワンポイントのタトゥーを見つけ、院長に告げたのである。
C院長には寝耳に水の話で、報告を受け狼狽した。60歳代のC院長にとって、体に彫り物を入れることは「反社会的」というイメージがあり、もし患者が知ることになったら怖がらせてしまうのではないかと思ったのだ。医療機関の職員としてふさわしくないので、できれば退職してもらった方がよいのではないか——。C院長はそう考えた。
そこで早速、B子を呼び出してタトゥーの有無を確認したところ、本人はその事実を認めた。しかし、院長が「医療機関の職員としてふさわしくない」と言ったところ、「何がいけないんですか。患者さんから見えなければ問題ないでしょう?」と反論。結局、退職を促すことはしなかったが、その後C院長とB子の関係がギクシャクするようになってしまった。
職員の身体の一部にタトゥーが入っていることを知り、対応に悩む経営者が目立つようになっている。医療機関のみならず介護施設も同様で、入浴介助でシャツの袖をまくったところタトゥーを入れていることが分かった、あるいは同僚から報告を受けたといった経緯で把握し、C院長のように「ウチにふさわしくない」と解雇や退職勧奨を考えるケースもある。
確かに、タトゥーを入れていることに対してネガティブな印象を持つ人もいるだろう。かつては彫り物を入れていること自体が、反社会的勢力の象徴のように見なされる時代もあった。ところが、最近はB子のようにファッション感覚でワンポイントのタトゥーを入れている若者も珍しくなく、「何がいけないのか」と反論する気持ちも分からないでもない。