今回のA診療所のようなケースで、スタッフを解雇することができるのだろうか。結論としては、難しいと言わざるを得ない。
B子の場合、別の職員が発見するまで、タトゥーを入れていることを誰も知らなかった。更衣中に初めて気付いたものであり、普段から露出しているわけではなく、患者に知られることは考えにくい。派手な印象はあったとしても、仕事そのものを真面目にこなしているのであれば、タトゥーを入れていること自体が解雇理由にはならない。
「当院にふさわしくない」と考えたとしても、多くの場合、それは感覚的な判断であり、詳細な身だしなみガイドラインを設定し、それに違反したら指導を行うといった徹底したルールの中で運営をしているわけでもない。そう考えると、タトゥーがあること自体を理由として解雇すれば「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という労働契約法第16条の規定に反する可能性が極めて高い。
「露出させないまま勤務してもらう」が基本
もっとも、そのスタッフが、患者や他の職員とのトラブルの過程で、威嚇する目的でタトゥーを見せたような場合は話が違ってくる。図柄によっては、「背景に反社会的勢力がいるのではないか」と恐怖感を抱く人もいるだろう。同時に、そのような職員を雇用している経営者に問題があるということになり、地域での評判が低下してしまうかもしれない。
特に高齢者では、タトゥーを見て「反社会的勢力」の先入観を持つ人が少なくないため要注意だ。万一、トラブル時に見せ付けるようなことがあれば解雇を検討することもやむを得ず、裁判などで争っても無効とならないこともある。ただ、通常は隠して仕事をしたいはずであり、解雇前提で議論を進めることがないように注意しなければならない。
以上を整理すると、積極的に露出しているわけでもないタトゥーが入っていることを理由とした解雇は難しいと考えるべきであり、露出させないまま勤務してもらうことが基本である。今回のケースのように、当該職員から「何が問題なのか」と問われたら、万一それが露出してしまった場合の患者への影響などを伝えれば、通常は理解してくれるだろう。具体的には、「タトゥーを見て勘違いをする患者もいるかもしれないので、露出は控えること」と伝えればよい。