こうした問題を事前に防ぐため、採用時の面接で有無を確認する医療機関もあるかもしれない。しかし、職務経歴を聞いたり、希望給与額を確認する中で、タトゥーの有無を確認するというのはいかにも突飛であり、不自然である。中には、アザなどを隠すためにあえてタトゥーを入れているケースもあるかもしれない。そう考えると、まずは自院の独自の身だしなみガイドラインを策定し、採用面接時に「このガイドラインに違反していることはありませんか? 遵守して働いてくれますか?」と確認するのが現実的だろう。

 仮にこうした方法により、採用面接時の自己申告でタトゥーがあることが判明し、自院の身だしなみガイドラインに反することを理由として採用しないことは問題ないと考えてよい。事業主には採用の自由というものが認められているので、採否は事業主の判断に委ねられる(下記の「三菱樹脂事件」最高裁判決を参照)。

◎参考裁判例 (「三菱樹脂事件」 最高裁1973年12月12日判決)

 大学卒業と同時に採用されたA社から、3カ月の試用期間が満了する直前に本採用拒否の告知を受けたが、その理由は、大学在学中に学生運動に従事した事実を面接の際に秘匿したことが経歴の詐称に当たるというものであった。裁判所は「企業が自己の営業のためにどのような者を雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則自由である。企業が特定の思想、信条を有する者を、そのことを理由に雇入れを拒んでも、違法とはいえない」と判示した。

 もっとも、労働力人口が減少している中、外国人の雇用に踏み切る医療機関や介護事業者は今後増えてくるだろう。また、親が外国人で自身は日本で育ったという人を雇うケースも相当数発生すると思われる。海外ではタトゥーに寛容であることが多く、採用した外国人労働者にタトゥーが入っていたという声が多方面から聞かれるようになるのは、時間の問題であろう。医療機関や介護事業所において、外国人労働者の増加など、社会の大きな変化に即した人事労務管理が求められる時代は、目前に迫っているようにも感じられる。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。