診療所の経営を継続し、地域から信頼される医療サービスを提供し続けていると、近隣の医療・介護施設などとの間で様々なつながりが出来上がってくる。そうした施設との間で、患者の紹介や情報交換を行う頻度が増えてくると、診療の傍ら、院長自らが全てに対応することは難しくなってくるものだ。
そのため、診療所でも連携担当スタッフを置くところが増えているが、クリニックの人員体制を考えると連携業務のみに携わってもらうことは難しく、受付・会計などの仕事もこなしてもらわなければならないことが多い。
こうしたケースで、様々な業務を覚え、実践してもらう過程で、本人への教育、指導に関するトラブルが発生することがある。今回紹介するのは、そんな事例の1つだ。
順調なスタートを切ったように見えたが…
循環器内科などを標榜するXクリニックは、院長と看護職員5人(うちパート2人)、事務・受付職員4人(うちパート2人)の体制で診療を行っている。フルタイムの常勤職員が少ないこともあり、開業以来、院長も診療以外の事務手続きや連携業務などを診療の合間に担当するようにしていた。
しかし、外来患者数の増加により業務が多忙になり、自分自身がこれらを並行して行うことは困難だという院長の判断から、主に地域連携に関する業務を担当する職員を新たに採用することにした。
募集から間もなくして、連携先病院から紹介されたA(30歳代女性)を担当職員として採用することとなった。Aは以前、その病院で連携業務に従事していたが、今は退職し、勤務時間に比較的ゆとりがある診療所や介護施設などで働くことを希望しているという。
勤務開始前のオリエンテーションでAが来院した際、院長は今後Aに託す業務内容を職員たちの前で説明し、その他の事務についてもAが早めに覚えられるように協力してほしいと話をした。
Aは入職後、それまで院長が担っていた連携業務を手際良くこなし、順調なスタートを切ったように見えた。ところが、Aの入職から3カ月余りが経過したころ、院長はAから「今後のことで少し相談があるので、時間を頂きたい」との申し出を受けた。心配した院長は、早速面談の機会を設けることにした。
「特に教えなくてもできると思うけど」
院長は、Aには連携以外の業務をこなせる能力があると見込み、幅広い業務を担当してほしいと考えていた。将来的にはリーダー職として活躍してもらえればという期待も持っていた。
ところが、Aの主担業務が決定したころ、本人が周囲の先輩職員に「病院の一部署しか経験がないので、クリニック全般の業務の内容や手順を教えてほしい」と伝えたところ、在職期間が最も長い正職員Bから「院長から優秀な人材だと聞いているし、特に教えなくてもできると思うけど」と言われてしまった。電話応対や清掃などの簡単な日常業務は周りの職員の様子を見て覚えたが、その他の事務に関しては説明してくれることもなく、保管してあるマニュアルなどを読んで身に付けたという。それでも分からない点や不安なところをBに質問すると、「そのうち慣れると思うので、そのまま続けて」との答えしか返ってこなかった。
Aは、このままでは連携業務だけしかやらせてもらえないのではないか、いつまでも職員の輪に溶け込めないのではないかと不安が募り、院長に相談したとのことだった。