Illustration:ソリマチアキラ

 昔は、薬剤師の研修もボクが企画して外部講師を呼んだりしていたが、ここ数年は担当課長に任せっきり。今さらボクが顔を出す場ではないことは重々承知しているが、最近はどんな研修をしているのか気になって、久しぶりに研修をのぞいてみることにした。

 その日の研修テーマは服薬コミュニケーション。患者役と薬剤師役に分かれて、複数の症例を使ってロールプレイをするという。ボクは会社設立当初から、「患者さんとのコミュニケーションを大事に」と、口を酸っぱくして言ってきた。どの会社よりも早く、接遇で有名なI先生に定期的に講義してもらうなど、それなりに意識してきた自負がある。

 あれから10数年、さぞかし、うちの薬剤師たちのコミュニケーションスキルに磨きがかかっているに違いない──と思いきや、ロールプレイが始まって5分と経たないうちに、ボクはとても悲しい気持ちになった。一体これは何なんだ?

 高血圧で治療中の患者が、かぜで受診した後に来局したという設定らしいが、薬剤師役も患者役も、決められた設定に基づいて、即興で作った脚本を読むだけ。患者役は薬剤師役の対応によって対応を変えることもなく、患者役の言葉によって薬剤師役の質問が変化することもない。しかも棒読みだから、血の通った会話という雰囲気がまるでない。最近のロボットなら、もっと気の利いた会話ができるんじゃないか。

 ロールプレイだからだろうか……。いや、違う。そもそも薬剤師の質問に目的意識がないのだ。何のためにその質問をするのかを、まるで理解していない。

 かつて製薬会社のMRだったボクは、ロールプレイには一家言ある。

 ロールプレイは、自分の目的を達成するために、相手の心を突破するために、現実以上にリアルに演じなければならない。ロールプレイで出来ないことは、実戦でもうまくいかない。だからこそ、いじわるな医師役の先輩を相手にパターンを習得し、相手の反応に応じて臨機応変に、七変化しながら伝えたいことを伝える訓練をするのだ。

 今もそうだと思うが、製薬会社のMRが医師と話をするのは、そう簡単ではない。今回は顔と名前を覚えてもらう、次は薬の話を聞いてもらう、その次は勉強会の機会をもらう──。毎回、目的を設定して、どのように会話を展開すべきか頭をひねる。会話の1つひとつに意味を持たせ、それを積み重ねることで目的を達成する。

 薬剤師であれば、患者と会話する目的は、薬物治療をより良いものにすることだ(と信じたい)。なのに、何なのだ、この目的意識のなさは!! 質問の意図が全く見えない。もっと根源的なことを言えば、このロールプレイの研修の目的すら見えてこない。あー、イライラする〜。

 薬局は今、「モノからヒトへ」と大変革を迫られている。患者と向き合い、薬物治療に関与し、結果を出さないと生き残れない時代になってきている。対人業務には、薬学的な知識はもちろんのこと、それを現場で生かすためのコミュニケーションスキルが不可欠。つまりコミュニケーションスキルのレベルは、会社の存亡にかかわるのだ。

 あんな目的意識がない会話をいつまで続けても意味がない。まずは、ロールプレイのスキルを磨くために、ロールプレイ研修を……。いやいや、そうじゃない。

 ボクの心に木枯らしが吹いた。(長作屋)