「この4月からは法律も改正されることだし、本格的に働き方改革に取り組もう!」。ボクは今年の新年会で皆に宣言している。
うちの会社も2年ほど前から働き方改革に取り組んできた。折からの人手不足で、改革は思い通りには進んでいないが、それでも残業は減り、有給消化率は少しずつ高まっている。
そんなボクの心意気をくじくかのようなゴールデンウイーク(GW)の10連休。世間が騒ぎ出し、「そういえば、うちの薬局はどうするんだろう」と気になって、人事総務部長に聞いた。すると、「いやぁ、処方元の都合ですからねぇ」と、のん気な返事。彼は働き方改革の担当部長なのに、まるで危機感がない。
処方元が10連休中に診療するなら、薬局も開けなければならない。スタッフを休日出勤させると、代休を取らせなければならず、その前後のシフトを組むのが大変になる。そこで各店舗の薬局長に、門前の医療機関のGWの休診日を確認させた。すると、ほとんどの医療機関は10連休にすることが分かったが、2つのクリニックについては薬局長が院長に聞けない雰囲気だという。
そりゃそうだ。仕事大好き、患者さん大好きで、とても10連休にすると言いそうにない感じの2人だ。若い薬局長にとって、院長にお願いするのは負担も大きいだろう。「そんなときこそ、ボクの出番だ!」。ボクは張り切って出掛けた。
まずは、I先生。手土産を持って訪問し、話を切り出した。すると、4月29日(月)と30日(火)は診察するという。一瞬焦ったが、その代わり、5月7日(火)、もともとの休診日である8日(水)に加えて、9日(木)まで休むという。結局、5月1日(水)から9日(木)まで9連休になる。ふむふむ、それならうちもシフトを組んで代休を取らせることが可能だ。
問題は、H先生だ。70歳に手が届こうという年齢だが、1日100人近くの患者を診ている人気のクリニックだから、10連休中もガッツリ診療すると言い出しそうだ。そこで、とっておきのワインを持って訪問した。
「先生、GWですけれど」「あぁ、10日も休むと後が大変だからねぇ」「先生も休まれた方がいいですよ、いつもお忙しくされてますから」「まぁ、ねぇ」──。
H先生の背後で、クリニックのスタッフが院長にバレないように、ボクを応援していた。彼女たちも休みたいのだろう。しかし、H先生は「うん」とは言わない。ついにタイムアップとなり、「考えておくよ」との言葉でボクは退散した。
翌日、電話がかかってきた。「君が休みを取るように勧めるから、思い切って休むことにするよ」。ヤッター!と思ったのも束の間、「で、代診を頼むことにしたから」。えっ……。
人事総務部長は、「薬局には社長が伝えてくださいよ」と言ってくる始末。仕方ない。
打ちひしがれて薬局に行くと、薬局長がスタッフたちに海外旅行のことを楽しそうに話していた。1月中に申し込むと早割が適用されて安いので、既に申し込んだという。なんてこった!ボクは勇気を振り絞って、「実は……」と切り出した。
すると、ボクの傷ついた心に塩を塗るかのような薬局長の一言。「キャンセル料、会社が出してくれたり、しませんよね……」。休みかどうかを確認せずに海外旅行を申し込むのもどうかと思うが、気持ちも分かる。それだけに、なんともやりきれない。
楽しいはずの10連休、社長はツラいのだ。