トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 交通の便が良い住宅地で6年前に開業し、内科・消化器内科を標榜するAクリニックは、院長と看護職員4人(うちパート職員2人)、事務・受付職員3人(うちパート職員2人)で運営している。週2日は夜間診療として19時30分まで外来を受け付けていることもあり、職員が長い時間一緒に過ごすことも多い。かつ、パート職員の割合も高いため、正職員とパートとの関係も含め、院長は職員同士の人間関係がぎくしゃくしないように心掛けてきた。

 院長は福利厚生にも積極的に取り組み、慰労を兼ねた食事会や職員旅行などを開催し、できるだけ職員同士のコミュニケーションが円滑になるように配慮してきたつもりだったが、少し気がかりなことがあった。ある日の休憩時間、スタッフルームにいる職員たちの会話がたまたま耳に入ったとき、事務唯一の正職員であるBの声しか聞こえてこないことに気付いたのだ。

 Bは、豊富な経験を見込んで開業準備の段階で採用し、開院までは時給で勤務しながら院長とともにあらゆる準備に携わってくれた優秀な人材だ。他スタッフの育成を含め、現場リーダーとして業務の管理を任せていた。これまで、Bと他の職員たちとの関係が悪くなっているようには感じられなかったのだが、スタッフルームでBだけが話しているのはどうもおかしい。職員たちがBから何か強く指導されているのかと思ったが、スタッフルームに入って確認するのは良くないと考え、しばらく様子をみることにした。

 翌日、院長は診療の合間にB以外の職員の様子を観察していたが、診療時間内には特に問題は感じられず、院長はひとまず安心した。しかしその後、院長は改めて「異変」を感じるようになった。いつの間にか、院長に対し報告や確認をするのがBだけになっていることに気付いたのだ。「もしかして、あの時スタッフルームで話していたことと関係しているのでは」と直感した院長は、その日に早速Bと話をしてみることにした。

「なぜ私に相談してくれなかったのか」

 業務終了後にやってきたBに対し、院長はまず、最近の業務のことや、他の職員の様子など当たり障りのない話をした。その上で、「最近、私がBさん以外の人と話す機会が少ないように感じるんだけど、何か心当たりはある?」と尋ねてみた。

 するとBからは、「バラバラに動くとムダが多くなるので、私1人が先生との連絡役になることにしました」との返答があった。「ムダというのは?」と重ねて尋ねると、「毎日忙しいのに、一人ひとりが別々に先生のところに伺うのは効率が悪く、時間がムダだということです。業務効率を高めるため、やり方を変えました」とのことだった。

 院長は、Bが他の職員を先に帰して残業している様子も見ており、業務の忙しさもBの気配りも理解できる部分はあった。だが院長としては、職員たちとの日々のやり取りを通じて体調を確認したり、心配事がないかどうかを尋ねるなど、コミュニケーションの貴重な機会と捉えていたこともあり、若干の腹立たしさを覚えた。そこで「なぜ私に相談してくれなかったのか」と問うたところ、Bは「私は誰よりも長く在籍しているので、診療以外の業務のことは自分に指導の責任があると思った」と答えた。