Aクリニックでは、毎朝職員によって清掃が行われる。院長は、皆きちんとやってくれていると思っていたのだが、先日事務職員のB子から、「C子がダラダラと手を抜いて掃除しているので何とかしてほしい」との相談を受けた。
そこで、注意して観察してみたところ、確かに他のスタッフと比べC子の動きは緩慢で、適当にこなしているように見えた。そこで後日、院長がC子を呼び出して注意をしたところ、「私は看護師として雇われたのであって、掃除は病院のように業者に委託すればよいのではないか」と反論してきた。
Aクリニックは職員数が10人程度の小さな診療所で、清掃業務をアウトソーシングするほどの規模でもない。C子の話を聞いた院長は、「うちは小さなクリニックなので、外部委託せずにみんなで掃除をしてもらうのが現実的。職種を問わず、全員で取り組んでほしい」と伝えたが、C子は納得している様子ではなかった。
C子はその後も、不承不承、掃除をしているといった様子で、他の職員たちとの間にすき間風が吹き始めた。特にB子とC子の関係がよそよそしくなっているようで、院長はどうしたらよいものかと思案している。
多くの診療所では、Aクリニックのように、始業前の時間帯にスタッフが清掃を行っている。患者用の駐車場を有する施設では、駐車場内も含めて清掃していることが少なくない。
今回のケースのように一部の職員が清掃を手抜きし、真面目に取り組んでいる職員との関係がギスギスしてしまうことはしばしば見られる。実際、トイレをピカピカに磨き上げるほど丹念に掃除する職員もいれば、ホウキを持って患者用の駐車場に行き、いかにもやる気がなさそうに掃いている職員もいたりする。真面目に清掃をしている職員からみれば、腹立たしく思うのは当然だろう。
Aクリニックの院長はC子に注意し、「外部委託すればよいのでは」と反論されてしまったが、確かにC子が言うように規模が大きい医療機関では清掃業務全般を業者にアウトソーシングしていることが多く、看護師であれば看護業務に専念できる環境が整っている。ところが小規模な医療機関では、清掃業務のみならず、来院する業者への対応、外線電話対応などを職種を問わず行うことが一般的で、本来の業務以外のこともみんなで協力して実施することが多い。病院から転職してきた看護師の中には、こうした点に戸惑う人もいるようだ。
労働時間として扱われないと不満の種に
では、クリニックの院長としてはどう対処すべきか。まず大切なのが、始業前の清掃の時間を労働時間として扱うことだ。スタッフが清掃に真面目に取り組まない理由として、その清掃の時間が完全に業務外として扱われていることがある。例えば午前9時から患者を受け付けるクリニックで午前8時45分から始業として扱われる場合、清掃が8時30分くらいから行われても労働時間として扱われず、潜在的な不満になっているわけである。
院長としては、「患者を迎えていない上、通常の業務も始まっていない。それに、自分たちが気持ちよく働けるように、かつ患者に快適に過ごしてもらうように清掃しておくのは、準備として当然のことであり、賃金を求めるような性質のものではない」と考えるかもしれないが、それが任意ではなく強制されるのであれば、労働時間として扱わなければならない。このことは、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日)に明記されている。