以上から、始業前の清掃は労働時間として扱うことを前提に運用すべきであり、業務の一環として取り組んでもらう必要がある。その上で、手を抜いている職員に対しては、通常業務での手抜きと同様に、注意をして改善してもらわなければならない。

 今回紹介したAクリニックでは、C子が「看護師として採用されているのだから」との理由から、清掃に消極的な姿勢を示した。クリニックに採用された時点で、清掃業務をアウトソーシングする規模でないことや、看護師が看護業務だけを行う環境ではないことは、ある程度理解していたはずであり、院長としては納得しがたい部分があるだろう。

 ただ、病院勤務しか経験していない看護師が、こうした思いを抱くことも分からなくはない。そのため、クリニックの就業規則に「本来の業務のみならず、付随する業務も積極的に行わなければならない」ということを職員の義務として明記しておきたいところだ。また、採用時に締結する雇用契約書においても、業務内容を単に「看護業務」とするのではなく「看護業務および関連する付随業務」といった記載にしておくことも必要である。特に、清掃に関して強調したいのであれば、「看護業務および関連する付随業務(院内外の清掃業務も含む)」としておくと、なお良いだろう。

「清掃手当」の支給をどう考えるか

 ところで、医療機関の中には、清掃を徹底的にやってもらうために「清掃手当」などの名称で数千円の手当を付与しているところもある。手を抜いたりすれば、手当がゼロになるといった運用である。

 こうした手当の付与は、清掃業務を徹底してやってもらいたいというメッセージにもなるが、「お金で釣っている」という見方もできなくはない。院内外の清掃への取り組みを人事評価の項目に入れ、賞与に反映させる方法も同様である。こうした手法に対しては様々な考え方があるが、そうでもしないと真面目に清掃に取り組んでくれないというのであれば、やむを得まい。

 そもそも、本質的には「なぜ清掃を自分たちでやらなければならないのか」について職員自身に考えてもらうことが肝要だ。「労働時間内で義務だから」「手当が付与されるから」といった考え方が根底にあれば、「院長に注意されないために」あるいは「査定でマイナス評価とされないために」清掃するといった消極的な姿勢になってしまう可能性が高い。

 清掃をする意味や目的を職員たちに考え抜いてもらい、自ら動くようにしてもらうことが理想であり、本来の姿でもある。看護師については、感染症のリスクについての理解が十分にあるだけに、清掃のあり方について話し合うミーティングの機会を設ければ、むしろ議論をリードしてくれる存在になってくれるはずだ。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。