トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 東海地方のA整形外科クリニックでは、周辺の地域住民が高齢化していることもあり、患者数が次第に増加。待ち時間が増えてクレームになったり、職員の残業時間が増えるなど、マイナスの影響が出てきた。待合室の「ご意見箱」には、「診療までの待ち時間が長過ぎる」とか「会計が遅い」といった苦情が寄せられ、職員の帰宅時間がどんどん遅くなってきた。

 職員は常にスピードを求められているようで、雰囲気がピリピリしてきて、院長は「何か手を打たなければ」と考えていた。当時の職員数は総勢6人で、常勤のリハビリ助手を1人増員することとし、早速求人広告を掲載した。

 最近の人手不足の影響もあり、なかなか求人に反応がなかったため、基本給を上げて再度広告を出し直したところ、整形外科での経験が5年あるという40代のB美が応募してきた。面接に来てもらい、話をすると、リハビリ機器の操作や理学療法士の補助、患者の介助など、一通りの業務は経験しているとのことだった。コミュニケーション能力もあるように見受けられ、「これは即戦力になってもらえる」と考えた院長は、すぐさま採用の連絡をした。B美は、現在の職場を直ちに退職できないため、2カ月後に入職したいとのことで、院長はこれを快諾した。

リハビリ室に不穏な空気が…

 B美に採用の連絡をした次の週、院長は朝礼で、新たなリハビリ助手が入職することを職員たちに伝えた。その際、新入職員は整形外科での経験が豊富で、患者対応に長け、即戦力になる人材であること、それによって、既存の職員の負担が減るだろうということを付け加えた。

 採用の日を迎え、院長は朝礼で期待を持ってB美を紹介した。職員たちもB美の入職を歓迎しているような雰囲気だった。

 ところが、それからおよそ2カ月が経過したころ、院長は、リハビリ室に不穏な空気を感じ取るようになった。先輩リハビリ助手のCがB美を叱責する声が聞こえてくる。「何度言ったら、覚えるの? 覚えなきゃいけないことはメモを取るように言ってるでしょ」「患者さんをお待たせてしているでしょ。ちゃんと順番を考えて対応して。素人じゃないんだから」といった言葉が診察室にも聞こえてきた。

 さらに、昼休みの様子を注意して見てみると、B美は孤立しているようで、誰にも声を掛けてもらっていないようだった。院長は、後日B美を呼び、話を聞く機会を持った。B美は、すっかり萎縮してしまったような表情で、次のように話した。

 「最初は『経験者が入ってくれて、みんなの負担が減るからありがたい』というようなことを言われていましたが、先輩に分からないことを聞いたり、ミスをするたびに、どんどん皆さんの態度が変わってきて、最近は教えてほしいと言っても『自分で考えなさい』とか『何度教えたら覚えるのか』と怒られるようになったんです。かと言って、聞かないでミスをするとさらに怒られるので、どうすればいいのか分からなくなりました。このままでは、私は続けられないかもしれません」

「全然仕事ができないじゃないですか」

 院長は、これはまずいことになったと思い、数日後、先輩助手のCと理学療法士のDからヒアリングを行ったところ、2人の口調は厳しかった。「院長は即戦力だとおっしゃっていましたが、全然仕事ができないじゃないですか。前の勤務先でやっていたから大丈夫だと言うので、やらせてみると、できない。『失敗したことはメモを取って、繰り返さないように』と指導してもメモを取らない。私たちがカバーしたり、注意して見ていないといけないから、逆に仕事が増えています」とのことだった。