トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 A診療所では、事務、看護部門のそれぞれにリーダーを任命している。そして、定期的に院長とリーダーが話し合って業務全体の方針を決めているが、部門内で決定してもらうことも多く、そこはリーダーに任せている。

 ところが、事務部門のリーダーBは、部下に「どう思う?」などと聞くばかりで、自分で何も決められないため、スタッフが辟易し、「何のためのリーダーなのか」と不信感を募らせている。リーダーが手当を得ていることは職員も知っているため、「何もしないのに、リーダーであるというだけで手当をもらっているのはおかしい」という不満を漏らす職員も出てきた。

 院長としても、Bに対し「自分である程度は決めてもらわないと」と諭しているのだが、Bに変化は見られない。結局、事務部門の意思決定は、細かいことまで全て院長が行っている状況だ。

 業務経験や習熟度など考えると、B以外にリーダーをお願いできそうなスタッフはいない。しかし、このままの状況が続くと、組織風土にマイナスの影響を与えかねないため、いっそ事務部門のリーダー職を廃止した方がよいかもしれないと院長は思うようになった。とはいえ、任命したリーダーを、いきなり外すというのは、なかなかやりにくい。いったいどう対応したらよいのか、院長は困り果ててしまった。

今回の教訓

 A診療所のように、リーダークラスの人材がその役割を果たしておらず、経営者の悩みとなっているケースは少なくない。経営者としては、いろいろと現場を任せて、リーダーとしてメンバーを引っ張っていってもらいたいと考えているものの、自分で何も決められないどころか、単なる「お飾り」となっていて、既に決まっていることすらリーダーとして取りまとめて履行できないケースもある。

 部門内で何かを決めなければならないときには、一応、部下に「どう思う?」などと聞くものの、自分の意見や考えを持ち合わせていないことから、聞いたことをそのまま受け入れる。部下からすれば、「そんな仕事は私でもできる。手当もついているリーダーって何なの?」と不信感を募らせてしまうものである。結果として、ミーティングを開いても何も決まらず、事務的な連絡に終始し、スタッフが組織としての一体感を得られなくなることもある。

指揮命令系統の下で働いてきた看護師の強み

 こうした問題は、病院よりも診療所に多い。また、看護部門よりも事務部門に多く見られる傾向がある。

 病院の看護部門は大抵、きちんとした組織形態が成立しており、指揮命令系統が十分に機能しているため、そうした職場での勤務経験を有する看護師が診療所に転職すると、立場や役割などを踏まえて動けることが多い。

 これに対し診療所の事務部門では、一般企業の経験者などもいるものの、組織における指揮命令系統の中で、自身が指揮をした経験を有する人はそれほど多くはないため、リーダーを中心とする体制が機能し難くなるのである。