トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 A診療所に勤務するB子は、入職5年目の事務スタッフ。受付・会計の業務は問題なくこなしているのだが、院長には少し気になるところがある。個人所有のスマートフォンを机の上に置いたまま仕事をしており、手が空いたときに何やらチェックしているらしいのだ。

 診察室から受付・会計スペースは見えないので、院長が自分の目で確認したわけではないが、同じ事務部門のスタッフが、ちらっとそんな実態を打ち明けてくれた。それを知った院長が本人に注意したところ、「子どもを預けている保育園から電話があるかもしれないから、いつもスマホをそばに置いておかなければならないんです」と言われてしまった。

 そのときは、「そういうものか」と思ったが、保育園からの連絡を待つだけならば、触らずにそのまま置いておけばよく、手が空いたときにチェックする必要はない。だが院長は、気が強いタイプのB子に何度も注意して、都度反論されることを想像すると、それ以上指導するのが面倒になり、以降は放置していた。「長時間触っているわけでもないようだし、目くじらを立てる必要はないのでは」との思いもあった。

 ただ、同僚たちの間ではB子の件が問題視されていた。同僚たちも、B子から「逆ギレ」されるのを懸念し、腫れ物に触るような感じで、直接注意するのをためらっていたという。院長が注意してくれるものと思っていたが、一向に改まらないため、きちんと指導しない院長への不満も生じていたようだ。あるとき院長は、事務職員C子から、「相変わらずBさんは、仕事中にスマホを触っていますけど、院長は注意されたんですか」と聞かれ、いよいよ対応を取らざるを得なくなった。

今回の教訓

 今や国民の多くがスマートフォンを持つ時代となり、様々な機能によって生活が便利になった一方で、四六時中、触り続けて中毒のようになっている人も少なくない。そもそも医療機関では、下記の理由から、スタッフが職場に個人所有のスマートフォンを持ち込むことを禁じ、勤務中はロッカーなどに収納しておくことをルール化した方がよい。

 目的の第一は、職場の規律の乱れを防ぐことにある。A診療所のように、スマートフォンを持ち込んだスタッフが仕事中に操作するようになり、業務に専念しているスタッフとの間に溝が生じるというのは、よく見られるパターンである。A診療所のように、経営者や現場管理者の注意・指導が甘ければ、当然、職場の雰囲気は悪くなる。