Illustration:ソリマチアキラ

 「さて、問題です。2040年には、高齢者の人口はどのくらいになるでしょう?(1)今と変わらない、(2)今よりも2割増える、(3)今の1.5倍になる」 ある講演会のつかみで、エラ~イ演者がそんな質問を会場に投げ掛けた。400人ほどいる会場で、(1)はわずか3~4人、(2)は20~30人で、大半は(3)に手を挙げ、ボクもその1人だった。

 そんな大衆の期待を裏切るかのように、正解は(1)。ボクは心の中で「嘘でしょ~?! 」とつぶやいたが、それを否定するように演者は続けた。「高齢者の割合は増えますが、高齢者人口が増えるわけではないのです」。

 高齢者人口は増えないと知り、驚き、妙に納得し、そして悲しい気持ちになった。医療費抑制のあおりで調剤報酬が削られ、薬局経営はますます厳しくなることは覚悟している。しかし、薬を必要とする人は増えるはずだから、薬局業界の未来は決して暗くないはずだと信じてきたが、どうやらそうではないらしい。悲しくなったのは、薬局にとって、1つの時代が終わりを告げようとしていることを痛感したからだ。

 会社を立ち上げた頃、薬局のあるべき姿を求めて、医薬分業の先進国である欧米の薬局を見学に行った。当時、米国ではウォルグリーンが新しい薬局の形を作り、話題になっていた。カリフォルニア州の店舗では、こともあろうに調剤室の中で、ホットパンツ姿でローラースケートをはいた調剤助手(ちなみにキュートな女性だった)が調剤をしていた。ぶったまげたボクは、「こりゃ、日本では無理だ」と思い、米国型の薬局を目指すのをあきらめた。

 翌年、ヨーロッパに行ったボクは、どんなに小さな街にも教会と薬局があり、街の人に信頼され、様々な役割を担っている薬局を訪れて感動した。「こういう薬局を目指そう! 」と、心に誓ったのだった。今にして思えば、あの頃はどうすれば地域住民に選ばれる薬局になれるのかを考える余裕があった。バスに広告を出したり、健康フェアをやったり、漢方茶を売ったり……。

 あれから25年、世の中がこれほど変わるとは、誰も予想できなかっただろう。ここ15年ほどは、調剤報酬改定ごとに厳しくなってきている。制度を追いかけることに必死で、新しい薬局の形を作り出そうなんて、思う余裕がなくなった。

 最近は変化のスピードが加速している。決定的なのは、敷地内薬局の解禁だ。技術料が減り、薄利多売になりつつある昨今では、処方箋枚数が稼げる薬局は会社を支える屋台骨であり、大規模病院門前の薬局をいかに多く持つかが、会社を安定させる秘訣だった。しかし、どんなに有利な門前薬局でも、敷地内に薬局ができてしまえば一巻の終わり。今となっては、大規模病院門前の薬局はリスク以外の何物でもない。

 2020年度改定に向けた議論を見ても、暗雲が垂れ込めていて、明るい気持ちになれない。先日会った、知り合いの社長がつぶやいた言葉が頭をよぎる。「オレたちの時代は、平成とともに終わったんだ。大きなケーキの上にイチゴが3つも乗っているような時代はもう来ない。令和の時代は、小さなイチゴが1個だけ乗った小さなケーキをありがたく頂くしかないんだよ」と。

 ボクはイチゴのショートケーキが大好物なのだが、最近はイチゴの甘さが薄くなった気がしている。(長作屋)