「社長はつらいよ」というタイトルで本連載を始めたきっかけは、社長業の楽しさを皆さんにおすそ分けしたいという思いだったと記憶している。しかし、楽しさはとっくの昔に感じなくなり、特に最近は、つらさばかりが口から出る。
ボクはもともと慎重派だが悲観論者ではない。事業をはじめ、あらゆる局面において、慎重に事を進めつつ、まあまあ強引に突破するタイプだ。案外しぶとくて、窮地に立たされて、他の人が諦めるような局面も、何とか突破口を見付けて突き進んできた。そのボクをもってしても、最近の業界は先が見えない。つらさの根源はそこにある。
先が見えない理由は幾つかある。その1つは、制度の行方が見えないことだ。求められていることの1つ1つには意味があると思うが、ボクたちのような中小チェーン薬局の生き残り策にはなり得ないものが多い。
例えば、健康サポート薬局。薬局の機能として、健康サポート機能を持つことは大切だと思う。しかし、薬局の経済的な基盤にはならない。OTC薬を売ったり健康フェアを開催したりして、何とか地域住民を集めても、その人が処方箋を持って来局するまでには何段階もハードルがあり、売り上げアップにはつながりにくい。それよりも処方箋を持ってきてくれた人の服薬指導に力を入れる方が現実的に思える。
基幹病院の門前薬局には、専門医療機関連携薬局になることが求められているようだが、ボクたちの薬局の規模では、病院で研修をさせたり、専門薬剤師を育成することはかなり難しい。約30店舗を有する社長仲間の1人が、先日、敷地内薬局のコンペに参加した際、ヒアリングの場で聞かれたのは「がん専門薬剤師を何人用意できますか」だったという。当社が必死で育成したとして、せいぜい1人……。
一方の地域連携薬局はまだ希望がある。ボクの薬局では、10年ほど前から在宅に力をいれてきた。とはいえ、在宅医療にさらに力を入れようにも薬剤師が足りない。薬剤師不足に追い打ちを掛けるように、働き方改革なんてものが重くのしかかっている。経営者として労働者の権利を守ることは大切だと思うが、現実問題として残業をさせず、有給休暇を消化させるためには、これまで以上の人員が必要となる。
薬剤師があっという間に辞めてしまうことも人手不足に拍車を掛けている。薬局長が少し厳しく指導しただけで、「あんな薬局長の下ではやっていけないので辞めます!」と、パワハラを理由に挙げる薬剤師も少なくない。このご時世、パワハラやモラハラでいつ訴えられてもおかしくない。
そんなある朝、出社したボクの机の上に白い長封筒が置かれていた。「何の前触れもない退職届?もしかして退職した社員からの告発文??いや、もしかしたら患者からの内容証明付きの手紙かも」─—不吉な場面が頭の中をグルグル駆け巡り、鼓動が激しくなる。
恐る恐る差出人を見ると、〇〇院長婦人からだった。何のことはない、先日贈ったシャインマスカットへのお礼状だった。院長夫人を含め、皆さんに声を大にして言いたい。
ボクへの郵便は、白い長封筒でなく、可能な限りはがきにしてください!社長室の机の上に白い長封筒を置かないでください!!お願いします。(長作屋)