以上を考えると、そうした職員が辞めてしまっても仕事を回していくという覚悟を持って対処していくことが必要だ。実際に辞めてしまうと、人材が補充されるまでに時間がかかり、院長も他の職員も多忙になって疲弊する可能性が高いが、精神的なストレスは大きく減るはずである。嫌な気分を感じる職場など誰しも行きたいとは思わないものであり、忙しくてもやりがいを感じる職場であれば、定着率は高まるであろう。忙しさなど職場への不満があったとしても、ある程度はやむを得ないと理解してくれるはずである。

 ただし、退職をちらつかせて要求を繰り返す職員に注意、指導をする上では、気を付けるべきポイントがある。本人が「院長から、嫌なら辞めろという意思表示をされた」と解釈すると、「不当に解雇された」というトラブルに発展する可能性がある。具体的には、「辞めたくもないのに不当解雇されたので慰謝料を請求したい」と申し立ててくるようなケースだ。解雇の際には30日前に通知をするか、即日解雇であれば30日分の平均賃金の支払いが必要となるが、本人が即日解雇を言い渡されたと解釈し、30日分の平均賃金の支払いを請求してくることもある。

B子の不満の背景にあったもの

 そのため、転職をちらつかせる職員に対しては、「あなたがここを辞めて転職をしたいというのであれば、それは私が魅力のある職場をつくれなかったことに原因があるので、仕方がない」といったような伝え方で対応していくことが無難だ。そこからどうするかは、本人が決めることだが、結果的に退職願の提出に至ることも少なくない。

 結局A診療所では、院長がB子に対し、言動や態度などが社会人として不適切である旨、改めて注意した。ただ院長は、単に注意をするだけでは対立関係になりかねないと考え、2人だけで食事をしながらゆっくりと話をする時間を何度か持った。そうしたところ、プライベートで色々と問題を抱えていることでストレスが蓄積し、そのはけ口として不満を訴えていたことが分かった。院長が本人の事情を受け止め、理解を示して接するようにしたところ、B子の態度が改まってきた。周囲の職員との関係も徐々に改善しつつあるという。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。