そもそも職員は、勤務時間中は職務に専念しなければならないという職務専念義務を負っており、その労働の対価として賃金が支払われている。手鏡を見て整える時間はたいしたものではないが、頻回になれば無視できないし、それ以前に、仕事の細かいところに目を配ってほしいと管理職が考えるのは無理もないだろう。

就業規則に追加した2つの規定

 結局、A診療所の院長は、今回のことを契機として職場全体のルールを見直すことにした。仕事に就く場に私物を持ち込むことを禁じることにしたのだ。

 医療機関では、情報漏洩リスクへの対応などから、就業スペースへのスマートフォンなどの持ち込みを禁止し、個人ロッカーに置くようにしているケースが少なくないが、A診療所ではスマホやその他の私物の持ち込みに関するルールがなかった(関連記事)。そこで、就業規則に「就業場所に私物は持ち込まないこと」という規定を追加。さらには、前述のように始業前や休憩時に身だしなみを整えてもらうことを徹底する狙いから、「身だしなみを整えてから就業を開始すること」との規定も追加した。スタッフたちには「集中して仕事をすることの妨げになったり、患者から余計な誤解を招かないようにするため」と説明した。

 その上で、勤務時間中でも、どうしても気になる部分があればお手洗いで整えることは問題ない旨を伝えるとともに、チーフクラスのスタッフには、身だしなみで気になるところを見つけたら、本人に適宜声をかけてもらうよう依頼した。こうした対応について、B子を含むスタッフから反論は出ておらず、今のところスムーズに運用できているようだ。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。