トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 A診療所に勤務する20歳代前半の事務職員B子。人材確保に苦戦している中でようやく採用できた職員だが、院長には気になる点がある。受付業務の最中、ヘアスタイルやメイクが気になるようで、少しでも時間があればポケットに入れていた手鏡を取り出してチェックし、手櫛で整えたりしているのだ。

 普段、診察室にいる院長は気付いていなかったのだが、あるとき同僚スタッフがそんなことをちらっと話し、知ることとなった。他のスタッフに確認してみると、確かに鏡を見ている頻度が高いという。そこで気を付けて見てみると、同僚たちの言う通りであることが分かった。

 後日院長は、本人を呼び出し、「患者さんの目もある中、頻繁に手鏡をチェックするのは好ましくないのでやめるように」と注意をした。ところが、B子は不服そうな表情を見せ、「院長先生はいつも身だしなみが大切だとおっしゃるので、鏡を見ることは問題ないのではないですか。それに、誰にも迷惑を掛けていないと思いますし」と反論してきた。院長としては厳しい言い方をしたつもりはなく、納得してくれるものと思っていたので、反論されたのは意外だったという。

 B子からそのように言わると、確かに本人の言い分にも理がある気がしてきて、院長はどう答えればよいか分からなくなってしまった。これ以上きつく注意すると、せっかく採用できたB子が辞めてしまうのではないかとの懸念も頭をよぎった。そこで、「鏡を見るのは構わないが、常識的な範囲で使うように」と言うにとどめ、それ以上の指導することはなかった。

 その後、B子の行動に大きな変化はなかった。院長の対応は、他の一部のスタッフにとって不満だったようで、「院長はB子に甘すぎるのでは」という声が聞かれるようになった。さらに、それ以降に採用したスタッフも、B子と同じように仕事中に手鏡を頻繁に見るようになり、院長はどう対処すべき分からず困惑している。

今回の教訓

 A診療所のように、年齢層の比較的若い職員が、勤務時間中に頻繁に手鏡を取り出してチェックする光景を見かけることがある。特に事務職員では座って仕事をする時間が比較的長いこともあり、ちょっとした隙間時間などに鏡で確認している。待合室の患者からは手鏡は見えなくても、仕草を見れば、鏡を取り出してチェックしていると分かるものである。

 確かに、医療人として身だしなみはとても大切だが、だからといって、仕事中に頻繁に整えることが求められているわけではない。むしろ、始業前や休憩時間に身だしなみをきちんと整え、仕事中に気にしなくていいようにすることが先決と言えるだろう。

 また、B子は誰にも迷惑をかけていないと反論していたが、患者からは仕事に集中していないように見えるかもしれないし、鏡ばかり見ているのを快く思わない同僚がいたことは事実である。仕事中に髪の毛を頻繁に触ることに対しては、衛生面から気になると言う患者もいる。