Illustration:ソリマチアキラ

 「売れない演歌歌手の地方巡業じゃあるまいし、昔ヒットした曲だけで食いつないでいる場合じゃないだろうっ!!」。ある日の営業会議でボクは思わず、こんな言葉を発してしまった。それもこれも、会議前日に処方元との合同忘年会に参加したせいだ。

 これを書いている12月は、忘年会シーズン真っただ中。古き良き時代の製薬会社の営業マンだったボクは、忘年会には並々ならぬ情熱を燃やす。処方元と薬局の合同忘年会は絶対に欠かさない。親睦を深める目的に加えて、お世話になっている院長やスタッフの皆さんへの感謝の意もある。しかし忘年会は、日にちが重なってしまいがちだ。もちろんハシゴも喜んで……なのだが、最近は寄る年波に勝てず、随分つらくなってきた。それで、今シーズンはルールを決めることにした。

 自分が交渉して作った薬局の処方元との忘年会は、出席しないわけにはいかない。しかし、他のスタッフが“営業”した医療機関との忘年会への出席は控えよう。そうすれば、数はいずれ減っていくだろう。よし、そうしよう!

 そう決めて、忘年会シーズンに突入する11月末、自社の薬局リストを眺めてみた。すると、どの薬局も処方元の顔がありありと浮かぶではないか。院長の人となりやご家族、スタッフのことまで詳細に把握しているボクがいる。

 ん?これはひょっとして……。

 ボクは、世代交代を夢見て、着々と会社の核となる若い衆を育ててきた(つもりだ)。少しずつ権限を委譲して、経営を任せてきた(つもりだ)。若い衆もそれなりに育ってきている(はず)。最近は色々なことがボク抜きで回るようになっている(はずだ)。調剤報酬改定の年も、シミュレーションをして予算を管理し、技術料や処方箋枚数を増やす対策を講じたり、在宅患者を増やしたりと、頑張っているのは認めよう。

 しかし、しかし、しかし、である。ボクが全ての忘年会に出席しなければならないということは、薬局がちっとも増えていないということに他ならない。

 悶々としながら出席したAクリニックの忘年会では、院長が「社長とは、もうウン十年の付き合いになります。あの時、重そうにカバンを持って、忙しそうに病院内を走り回っていた人が、こんなに大成するとは……」と、昨年も、一昨年も、その前の年も、ずーっと同じ挨拶をしている。

 続いて、事務長である院長の奥さんも、「うちが分業しようと思ったときに、何社も薬局がやらせてほしいとやって来て、その中から社長を選んだのよ。当時は、もっと小さな会社だったけれど、みるみる間に大きくなって……」と、これまた10年以上同じ話をしている。

 まるで儀式のような2人の挨拶に、ボクも「20年ほど前から先生のクリニックの前で薬局をやらせていただいて、先生のおかげで会社も大きくなり……」と応えた。

 時代は在宅だ、臨床だと移り代わっているのに、ここだけ時間が止まったかのように、十年一日、同じことを繰り返している。まるで何十年も前の、たった1つのヒット曲で地方巡業している演歌歌手じゃないか。いまに懐かしのメロディーになってしまう。そろそろ新曲をヒットさせないと、舞台に立てなくなるかもしれない。やっぱりボクが頑張るしかないか。

 よしっ、今年はヒット曲を狙うとするか!!(長作屋)