イラスト:畠中 美幸

 関東地方にあるA内科は、A院長が総合病院を定年退職してから開業したクリニックで、開院から既に7年程度が経過。A院長は70歳を過ぎ、体力的にもきつくなってきたため、診察時間を短縮するなどしていた。

 自分に何かあっても後継ぎはおらず、職員をいつまで雇い続けられるか心許ない部分があるため、開院当初から勤めている常勤看護師1人を除き、全員パートスタッフで運営し、パートは有期雇用としている。パートスタッフは子育て中の主婦がほとんどで、扶養範囲内で働く者が6人在籍。週2~3日の出勤で半日ずつのシフトを組んでいる。開業当初は、複数人が同時期に辞めたり、看護師が見つからなかったりと、スタッフ確保には苦労をしたが、ここ2年くらいは定着して人間関係も良さそうなので、A院長は安心していた。

普段は口にしなかった不満を一気に…

 ところが、ある日の診察終了後、常勤の看護師B子が思いつめた顔で、話をしたいと言ってきた。「常勤はこれまでずっと私1人だけで、残務処理だとか領収書の整理、日計表作成などの庶務までやっていますが、もっと看護師業務に集中したいんです。他のスタッフはパートばかりで、誰に何を頼んでよいか分からないし、結局責任を持つのは、私しかいません。夜遅くなることも多いし、パートさんがいない時間帯は、お昼休みにも入れず、電話当番をしなければなりません。残業代の計算はどうなっているのでしょうか?」。B子は、普段は口にしなかった不満を一気に吐き出した。

 「それに、急に診察時間を短縮したりしていますが、そうやって労働条件を変更された際に何らかの書面を頂いたこともありません。あと、聞くところによると、国の制度改正で有給休暇を年5日取ることが義務付けられたようですが、私は病気になったときしか取れません。給与水準も他のクリニックと比べて少ないですし、院長は私のことを評価してくれていないと感じます。このままでは長く続けられません」。

 A院長はあまりの剣幕に、しばらく呆然としてしまった。ここでB子に辞められてしまったら、医院は立ち行かなくなる。何でもそつなくこなし、引き受けてくれるB子に依存し過ぎたのは、自分の落ち度だ。そこまで思い詰めていたとは、申し訳ないことをしてしまった──。A院長は、「要望はよく分かった。今後の対応を税理士と相談してから返事をしたい」と答えるのがやっとだった。

今回の教訓

 後日、顧問税理士に相談したところ、社会保険労務士を紹介され、相談に乗ってもらうことになった。

 社労士はA院長から説明を受け、B子の業務内容と給与について「看護師には専門職として、看護師しかできない業務をやっていただきましょう。看護師の給与相場が事務職より高いのは、その専門性ゆえなのですから。現在のB子さんの給与明細を見ると、経験と勤続年数の割には、安いですね。全体的に相場が上がってきており、この地域では、基本給と各手当を合わせて月額32万円くらいが妥当だと思います」とアドバイスした。