イラスト:畠中 美幸

 A診療所に勤務する30歳代のB男は、理学療法士のリーダー。独り暮らしをしており、ネットショッピングによって購入した個人のものを勤務先に送付させている。そうしたことがしばしば発生していたので、事務職員が「私物を職場に送らせるのは良くないのでは」と注意をしたところB男は、こう反論したという。

 「うちには宅配ボックスが設置されていなくて、受け取りが大変なんですよ。宅配便の業者さんも何度も再配達のために自宅に足を運ばなくても済むし、段ボールや梱包材のゴミを職場で捨てられるのも便利。あなたもやったらどうですか」

 事務職員は院長に相談したが、B男の言うことにも一理あるように思われ、院長は対応を決めかねていた。ところが、この院長の対応は他の事務職員たちにとっても不満だったようだ。宅配便を受け取ることになる受付・事務スタッフから、「なぜ私たちがB男さんの私物を受け取らなければならないんですか」との声が上がるようになった。

今回の教訓

 実店舗に足を運ぶことなく、通信販売サイトを通じてネットショッピングをする機会が世代を問わず増えている。一方で、独り暮らしなどで日中に誰もいない世帯も多く、宅配事業者が再配達を余儀なくされるケースは少なくない。それが配送スタッフの過重労働を招いていることは、報道番組などを通じてよく知られているところである。

 確かに、宅配便の再配達は社会問題化しており、再配達を減らすために職場での受け取りを奨励する声が出てきている。行政機関やNPO法人などの中にも、職場での受け取りを推進するケースが見られる。この点については様々な考え方があるが、A診療所のようなケースで職場への配達を許容するかどうかについては、慎重に考えなければならないだろう。

 1つには、受け取るスタッフの手間の問題が挙げられる。事業所宛ての荷物と一緒に届けられるのであれば負担はそれほどでもないかもしれないが、それでも、どこかに保管したり、本人に対して届いた旨を何らかの方法で伝える手間が発生する。重いものであれば、持ち上げたり運んだりするのに苦労することもある。事業所宛ての荷物と一緒ではなく、私物しか届かなかった場合、受け取りに伴う作業は、本来の仕事とは全く関係ないものとなる。