受け取りの一つひとつに要する時間は、わずかばかりではあるが、そもそも職員は仕事をしに来ているのであって、指揮命令者である院長のもとで就労している。荷物の持ち主に気を遣ったり、本人に代わって荷物を受け取るというのは、雇用契約にも就業規則にも定めがない余計な事柄と言うことができる。

 梱包材の廃棄についても、A診療所のB男は「地域の有料のゴミ袋は高いから」と言って、職場で捨てていたようだが、通常、診療所は廃棄物の回収業者に別途有償で回収しに来てもらっている。つまり、本来は本人が負うべき経済的負担を診療所が負っていることになる。これも、金額にすれば大した話ではないが、それが許容されるのであれば、家庭の廃棄物を職場に持ってきて捨てることも認められるということになる。さらには、診療所が配送先として通信販売会社に登録されると、その職員が退職しても診療所にダイレクトメールが届き続けることがある。

 再配達の問題に対しては、時間指定をすることである程度減らすことが可能であり、事前に時間指定できない場合でも、メールやSNSで登録しておくと配送予定日時を連絡してくれる宅配事業者もあり、受け取り可能な時間帯に変更してもらうことも可能だ。また商品によっては、コンビニエンスストアなどに届けてもらう方法もある。

 地域密着型の診療所の場合、診療機能や地域にもよるが、スタッフが残業などのため、受け取り可能な時間に帰宅できないケースはあまり多くはないと思われ、上記の方法で再配達を減らすことは可能だ。前述のマイナス面を考え合わせると、やはり職場での受け取りは原則禁止とした方がよいだろう。

 結局、A診療所では、職場での私物の受け取りを原則禁止とするルールを設けた。ただ、何らかの理由で自宅での受け取りが難しかったり、家族に内緒で荷物を受け取りたいといった事情がある場合は、院長の許可を得た上で、職場でも受け取れることとした。その場合でも、梱包材などのゴミは自宅に持ち帰ってもらうことをルール化した。院長が趣旨を説明したところB男も納得した様子で、その後、配送を巡るトラブルは発生していないという。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。