Illustration:ソリマチアキラ

 ボクは毎年、人間ドックを受けている。会社では若いスタッフが随分育ってきて、何でも任せられるようになってきているが、銀行に対してはまだまだボクの信用が重要だ。ボクに万一のことがあると事業に差し障るので、日ごろから健康にはすごく気を使っている。

 ボクはお酒も好きだし、おいしいものを食べることも大好きだ。仕事柄、会食の機会も多く、ついつい飲み過ぎることも少なくない。しかし、これまで人間ドックで指摘されたのは大腸ポリープくらいで、血圧、血糖値、コレステロール値、尿酸値などは基準内で生活習慣病の疑いもなく、この体をくれた親に感謝していた。それなのに……。

 先日受けた人間ドックで血圧を測ったところ、看護師が「あらッ?」と不審な声を上げた。この一声に、ボクの心臓は「ドキッ」と大きく鼓動した(この瞬間、血圧も上がっていたに違いない!)。患者と接する医療職は、いかなる場合でも患者の前で疑念を表すべきではない。その一言が患者をどれほど不安に陥れるか——。見ると血圧は148/98mmHg。看護師が「いつもはこんなに高くないですよね。何か思い当たる原因はありませんか」と聞いてきた。思い当たる原因といえば……。

 実は、これまでボクは年に1度の人間ドックに合わせて、2カ月ほど前から食事に気を付けてカロリーを減らし、駅から家までの1.2kmを歩いていた。さらに1週間前からは仕事の会食を極力控え、自宅でのお酒も控える。普段85kgくらいある体重を80kg程度まで絞って人間ドックに挑んでいたのだ。

 そんなボクの努力は、飲み仲間の医者の一言によって完全否定された。「長ちゃんなぁ、人間ドックはありのまま受けるもんなんや。繕ってもしゃーないよ」。じゃあ今年はありのままに、と思ったのが間違いだった。体重は87kg、おまけに血圧まで高くなってしまった。

 こりゃまずい!そう思ったボクは翌日、会社を抜け出して、家庭血圧計を買いに家電量販店に走った。家庭血圧計は自宅にもあるが、突然ボクが使い始めると、口うるさい妻から面倒なことを言われそうだ。薬局で測るのもはばかられる。結局、会社のボクの部屋でこっそり測るしかないというわけだ。

 そんな間にも、新型コロナ騒ぎはますます大きくなっている。これを書いている3月下旬、既に感染ルートが特定できない患者も増えており、このままいくと都市封鎖もあり得る段階だ。薬局の事業が全てダウンするとは考えにくいが、何が起こるか分からない。

 うちの会社は150人ほどの社員がいて、給与や薬局の家賃などの固定費は月に4000万円程度。リスクヘッジを考えると、6カ月分以上の運転資金を持っておきたい。余裕を見て4億円を10年返済で借りたとして、今なら金利の支払いは年間で百数十万円程度だ。借りたお金を使わずに返せれば、百数十万円の出費で事業の継続と従業員の生活を守るための安心が買えるのだ。緊急事態宣言が出た瞬間に借り入れが殺到するだろうから、その前に——。

 そんなことを考えながら血圧計を見ると、なんと158/102mmHgに跳ね上がっているではないか!!「メインバンクの支店長を今すぐ呼んで!」。ボクは経理担当部長に叫んでいた。血圧は当分、下がりそうにない。(長作屋)