Illustration:ソリマチアキラ

 先日、薬局経営者仲間のAさんがすっかりしょげ返って「心が折れた」と話していた。Aさんの会社は、10薬局ほどを経営している。最近は厳しくなりつつあるものの、それなりにうまくいっている方だと、本人は思っていた。

 80人ほどいるスタッフについては、全員フルネームを覚えているし、家族構成もほぼ分かる。アットホームな社風を大切にして、月1回の薬局長会議の後にはみんなで焼き肉を食べに行く。それ以外にも毎週水曜日には、必ずスタッフを2~3人ずつ飲みに誘うと決めているらしい。

 そんな努力をしているにもかかわらず……。先日、Aさんのところにスタッフ3人がやってきて、突然、「社長、どこかに会社を売ってください!」と言ったという。実は、Aさんの会社は、4月1日のベースアップで0~2000円を示した。スタッフにしてみれば「1年間頑張ってきて、たった2000円しか給料が上がらないなんて、やってられません」というわけだ。しかし、経営者にしてみれば、社員にそんなことを言われたら、そりゃ心も折れる。

 翻って、ボクの会社は……というと、ボクだって毎年、スタッフを研修旅行に連れていったり、年末には全店舗の忘年会に参加してビンゴゲームの景品を人数分、ポケットマネーで用意したり、夏場にはバーベキュー大会も開催するし、色々頑張っている。

 この新型コロナウイルス感染症の騒ぎでは、早い時期にマスクを入手して、社員全員に家族の分も含めて配布した。最前線で頑張ってくれているスタッフ全員に、感謝と慰労の気持ちを込めて、戦時中の補給部隊のようにケーキを配って歩いたりもした。よもやAさんのように、スタッフから「どこかに会社を売ってくれ」と詰め寄られるようなことはあるまい……(たぶん)。

 そんなこともあり、ふと転職サイトでボクの会社の口コミをのぞいてみた。すると、総合点は2.8点と書いてある。企業の安定性3点、成長性・将来性3点、給与水準3点、仕事のやりがい3点、企業の理念と浸透度2.5点、入社難易度2点、福利厚生3点、教育研修3点——。この評価が高いかどうかが分からず、よく知っているB社の薬局の点数を見てみた。

 すると、なんと!3.3点と、ボクの会社より高いではないか!その薬局は、かかりつけ薬剤師指導料や服薬情報等提供料といった薬剤師の専門性を評価した点数をほとんど算定しないことで有名だ。うちのように「在宅をやれ」とか「薬歴を充実させろ」「医師への情報提供書を書け」なんてことは言わないだろう。そんな薬を渡すだけの薬局の方が評価が高いとは……。

 口コミを見ると、ボクの会社には「研修に残業代がつかない」とか「給与はまあまあ」などと勝手なことが書かれている。その中に「社長は薬剤師じゃないので仕方がないが、もっと薬剤師のことを考えてほしい」という記述があった。その一言に、ボクは目を疑った。確かにボクは薬剤師ではない。しかし、薬剤師以上に薬剤師のことを考えているつもりだ。薬剤師が医療従事者として活躍できるように、いつもいつも考えている。それなのに……。

 Aさんの会社も大変だけど、ボクの会社も大変だ。すっかり心が折れてしまった……。(長作屋)