イラスト:畠中 美幸

 Aクリニックは院長、看護師の他、常勤事務職員2人で運営している内科診療所だ。事務職員のB子は勤続5年目で、患者のことも対外的な対応も知り尽くしているベテラン職員。もう1人のC子は最近、中途採用した20歳代前半の職員である。

 今春、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大する中、事務職員は、受付・会計時の感染防止策などの手間が増え、ピリピリした状態にあったが、それに輪をかける状況が生じた。C子がほとんど電話を取らず、B子の負担が増えてしまったのだ。

 新型コロナの流行の影響からか、Aクリニックではここ数カ月、問い合わせの電話が増えてきた。発熱患者の受診に関する問い合わせや、院内の感染対策、ワクチン接種などに関する質問のほか、インターネットを使いこなせない高齢者層の予約キャンセルの連絡が増えたのだ。

 もともとC子は、電話を積極的に取る方ではなかったが、電話の件数が増加している中でもなお消極的であり、B子がほぼ全ての電話を取るはめに。これまでもB子はC子に、きちんと電話を取るよう求めてきたが、一向に改まらないことで立腹。院長に助けを求めることにした。

 B子はある日、院長に「相談があるので、勤務が終わったら話を聞いてほしいです」と申し出た。そして、その日の勤務終了後、B子は院長に対し「C子がほとんど電話に出ないので何とかしてもらえませんか」とストレートに訴えた。ところが院長は、「何だそんなことか」と高をくくり、「本人に『電話に出てくれ』と言えばいいじゃないか」と答えてしまった。B子は顔を真っ赤にして「そんなことは何度も伝えています!」と反論。院長は、思っていたより事態が深刻であると認識し、「このままではB子が辞めると言い出すのではないか」と懸念した。

今回の教訓

 電話がかかってきた際に、積極的に取る職員とそうでない職員がいて、組織内で不満が生じるというのは、よくある話だ。人数の多い職場であれば、電話に出ていない職員がいても目立たないかもしれないが、診療所のような小さな組織ではそうはいかない。

 Aクリニックの院長のように、経営者としては「電話に出ない職員がいるのならば、お互いに注意すべきだろう」となるが、現場の職員から見れば対処はそれほど簡単ではない。特に女性ばかりの少人数の職場であれば、ちょっとした注意で職場の雰囲気が悪くなることを避けたいという意識が働きやすいため、お互いに厳しく注意するというのは、なかなかやりにくいのが現状である。

 電話を取らない理由は様々だが、単に面倒というだけでなく、電話応対に苦手意識を持っていることもある。特に若年層の場合、生まれ育った自宅に固定電話がなかったり、あったとしても、外部からの電話は家族の誰かの携帯にかかっていることが多い。ましてや、スマートフォンが普及して以降は、電話ではなくSNSによるメッセージの送受信で用を済ませることも多くなったため、C子のように電話で話をすることに慣れていないことが少なくない。社会に出て初めて、全く知らない人からの電話に臨機応変に対応することを求められ、尻込みしてしまうというのは分からなくもない。

まずは仕事の意味を考えるところから

 しかし、だからといって電話に出ないことを許容すべきではない。診療所で事務職員として採用した以上は、受付・会計業務のみならず、外部からの問い合わせや業者への対応など、日常的な付随業務もこなしてもらわないといけない。電話に出ないのであれば、業務命令として、改めて経営者である院長から指導すべきである。

 時にはクレームの電話が来ることもあり、電話に不慣れな職員が対応して火に油を注ぐことになるのではと懸念する院長もいるかもしれないが、それを恐れていては解決につながらない。対応に困る事例であれば、途中でベテラン職員に代わってもらう方法もある。