Illustration:ソリマチアキラ

 このコロナ禍で、多くの薬局が経営に打撃を受けている。当社でも、徐々に患者数が戻ってきているものの、8月における全店合計の応需処方箋枚数は前年同月比−7%程度だった。

 特に厄介なのは小児科と耳鼻咽喉科だ。8月になっても受診する患者が減ったままだ。外出機会が減り感染症や外傷が減っていることに加えて、最近は感染を心配して、ちょっとしたことなら受診しない傾向にあるようだ。複数の薬局を経営していればカバーできるだろうが、小児科や耳鼻咽喉科の門前の個店は、それなりに厳しいだろう。

 にもかかわらず、医師会は医療機関の方が打撃を受けているとして、薬局にさらなる圧力をかけようとしている。次の調剤報酬改定が今から思いやられる。閉店やM&A(合併・買収)に一層の拍車がかかるに違いない。

 我が社でも、特定の店舗について撤退する準備を始めた方がよいのではないかといった声が出ている。確かにこのご時世、不採算店を抱えていては会社自体が転覆しかねない。薬局のある地域は、比較的都会であり、その薬局がなくなっても患者が路頭に迷うことはないだろう。近くの薬局を紹介してもいいし、利便性を言うなら、「0410対応」で我が社の別の薬局が処方箋を応需して、薬を届けることも可能だ。

 患者に迷惑が掛からないのだし、経営的には正しい判断だと思う。しかし……と、ボクは思ってしまう。不採算店を閉めたり売却することは、ボクたちがこの25年間、言い続けてきたことがウソになるような気がするのだ。

 25年ほど前、医薬分業率が全国平均20%程度だった頃、ボクたちは医師に医薬分業の意義を説いて回った。多くの医師は医薬分業に懐疑的だったし、当時は「患者が減る」と院外処方箋の発行をしぶる医師は少なくなかった。患者からは「二度手間」「費用が高くなる」と言われ、トラブルになることもあった。そんな中、「手間とお金が少しかかるけど、患者にとってメリットがあるはず」と言い続け、医薬分業を推し進めてきたのだ。それなのに、こちらの都合で撤退するというのは、なんともやりきれない。

 当時は、処方元の医師も強気で、「院内処方に戻すぞ」と脅し文句を吐かれることもしばしば。そのたびに謝りに行ったり、ケンカ別れスレスレのところで、こちらの要望を通す交渉をしたり、スリリングな日々をくぐり抜けてきた。院内処方に戻させないために、そうと気付かれないように診療所の調剤棚を薬局が譲り受けるなんてこともした。そのクリニックも既に代替わりしている。今の院長は、そんな古い話は知らないだろうし、うちが撤退しても困らないだろう。しかし、先代の院長との日々を思うと、軽々しく「撤退」なんて言えない。

 それにしても「医療に不要不急はない」という言葉を聞いて、強くそう思っていたけれど、実は不要な医療はあったし、こともあろうにうちの薬局の何店舗かは、その不要な医療があってこそ成り立っていたとは……。

 新型コロナウイルスは、あらゆる無駄を暴いて、切り崩していく。顔を突き合わせての会議や日々の通勤、はんこ……。そこに、安心を得るためだけの受診も入れられているようだ。ただ、本当にそれらを全て省いてしまっていいのか、ボクには分からない。(長作屋)