1回当たりの出費は少なく、年間5000円程度だったとしても、長年勤務すればその額は膨らんでいく。かといって、B子としては、自分自身が「お土産文化」の廃止を提案すれば、「それくらい、いいじゃない」と職員に反論されたりして、組織の一体感を壊してしまうのではないかと懸念していた。そこで、思い切って院長に相談をしたのだった。

 振り返ってみれば、A診療所には、実家暮らしの独身で生活面に比較的余裕のある職員が多く、院長は「土産のお菓子程度の出費なら問題ないのでは」と考えていた。しかし、少数ではあっても、生活費への影響を訴える職員がいるのであれば、その要望を受け止めなければならないと思った。それに、B子以外にも、内心、お土産を選ぶことを面倒に思ったり、出費を気にしている職員がいるかもしれない。

 ただ、院長としては和気あいあいとしている組織風土を崩したくはないし、むしろそこは長所として伸ばしたい部分でもある。どう対応すべきか悩み、色々な人に相談を持ち掛け、結局、顧問の社会保険労務士の提案に乗ることにした。

スタッフたちは院長の提案を歓迎

 1週間後、毎月定期的に行っている職員全体の会議において、院長は職員に対して、以下のような話をした。

 「毎月、この会議の後に『職員会』というものを開催します。職員の親睦を深める目的から開催するもので、診療所の負担で毎月1万円拠出します。それを元に全国各地から名物のお菓子を取り寄せたり、近くのお店でおいしいケーキを買ってきて、みなさんで食べながら、仕事以外のことでもざっくばらんにお話をしてください。私はそこには参加しません」

 続いて、院長はこう話した。「これまで、旅行などに行った際にお土産を買ってきてくれる方もいましたが、そうしたお金は、自分自身や家族のことに充ててもらうようにしましょう。今後は、お土産はなしにして、職員会を楽しみませんか」。

 その場で職員全員から賛同の声が上がり、これをもって、お土産をやめることが決まった。お菓子の取り寄せに当たっては、その選定や購入を全て職員に任せるようにしたところ、「次は何にしようか」といった話も盛り上がり、院長は雰囲気が今まで以上に良くなったように感じている。院長が「職員会」を提案した日の夜、B子からのSNSには「ありがとうございました」とのメッセージが入っていた。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。