Illustration:ソリマチアキラ

 50歳を過ぎたら引退しようと考えていたボクだが、既に還暦をさまよっている。惜しまれながらカッコよく引退するには、次世代を育てなければならない。そこで以前から、外部の教育研修会社にマネジメント研修をお願いしている。先日、その研修をのぞいてみた。

 5人の幹部候補生が集まって「薬局の応需処方箋枚数を増やすための戦略」についてディスカッションしていた。しばらく見ていたが、ちっとも話がまとまらない。活発に意見している1人は正論を語るだけで具体性がない。残りの4人はうなずくばかり。黙って聞いているつもりだったが、つい口を挟んでしまった。「これは会議なのか、研修なのか!」。すると正論くんが「会議をする研修なんです」と一言。ごもっとも……。

 マネジメント研修を取り入れたのは、他でもないボクだ。しかし、そのボク自身、実はサラリーマン時代に「こんな研修、意味がない!」と言って、研修所を飛び出した前歴があるのだ。

 ボクがいた外資系大手製薬会社では、昇格のたびにマネジメント研修があった。そのときは、高原のセミナーハウスに全国から30人ほどの新米エリアマネージャーが集められた。3泊4日の合宿研修の2日目、チームに分かれて「売り上げを伸ばすための戦略を立てる」というプログラムがあった。売り上げが伸びない理由や課題をブレイクダウンし、課題解決策を考え、目標設定して方策を立てるというものだった。

 最初は、真面目にやっていたが、そのうちバカバカしくなってしまった。現場の課題は日々変わり、その時々で突破していくしかない。大切なのは、目標達成への強い気持ちを一人ひとりが持ち続けられるかどうかだ。そして、若気の至りでボクは「こんなマドロッコシイことをやっているより、『何としても医局に新薬を浸透させる』という意欲を維持させる方法を考えるべきだ」と言い放ち、「ボクには現場がありますので」と捨てぜりふを残して、帰ってしまったのだ。

 翌日、人事部から叱られたが、当時、トップMRだったボクには何の処分もなかった。直属の上司はビビっていたが、若いボクをエリアマネージャーに抜てきした支店長はあきれながらも「大したもんだ」と褒めてくれた。

 研修の企画・運営者には悪いことをしたと反省するが、言ったことは間違っていないと思っている。MRは営業職だが、技術職の色合いが濃い。プロフェッショナル集団は、医師の世界でもそうだが、通常の企業のマネジメント研修はなじまない。これからは薬剤師もそうだ。

 技術職集団のレベルを上げるには、例えば薬剤師であれば、患者の薬物治療をより良くするといった共通の目標の下に、一人ひとりがその情熱を維持し、パフォーマンスを発揮するような仕組みが大切だ。そのためには、1人のスーパースターが必要だ。今どきの言葉でいえば「ロールモデル」だろう。「こんな風になりたい」と思える先輩がいれば、憧れて技術を磨き、パフォーマンスを発揮する人たちが増える。強い情熱を持ち、病態や疾患に基づいた薬物療法を語る薬剤師がいれば、その店舗のパフォーマンスは高まるはずに違いない。

 そんなボクの熱い想いをよそに、会議兼研修(?)はうだうだ進んでいく。誰か、「こんな研修、意味がない!そんな時間があるなら、臨床薬学を学びましょう!」って言ってくれないか。(長作屋)