Illustration:ソリマチアキラ

 新型コロナウイルス感染症のせいで、本社も忙しい毎日が続いている。流行発生時から、マスクや消毒薬の手配、スタッフのシフト変更や在宅勤務の労務管理など業務が大幅に増えた。その上、「医療機関・薬局等における感染拡大防止等支援事業」の補助金の申請という大仕事もある。これは、1薬局70万円を上限に、感染拡大防止対策や調剤・薬剤交付の体制確保などに要した費用が補助されるもの。2月に入り、2020年度第3次補正予算でさらに20万円が上乗せされた。

 そこでボクは、総務課管理課長に全店舗を回り感染対策物品リストを作成するよう指示した。感染対策は待ったなしで、店舗ごとに必要なものを順次そろえている。そこで購入済みで補助金の対象となるものと、まだ購入していないが必要なものを、店舗ごとにリストアップするように指示したのだ。

 課長は、薬局を走り回り1カ月かけてリストを作ってくれた。見ると、感染拡大防止対策費は多い店舗でも40万円程度にすぎない。補助金上限でも足りないと思っていたボクは、不思議に思いながら確認したところ、店舗によって購入品目が全く違うのだ。例えば、約半数の店舗では足踏み式の消毒液スタンドとスタンド式検温器がリストに上がっていない。課長に聞くと、入り口付近に消毒液と非接触体温計を置く台があるので「それで大丈夫」と言う。より感染リスクの少ない設備を導入する気はないようだ。また空気清浄機は、メーカーや仕様がバラバラで家庭用のものも混ざっている。聞くと、店舗の要望をまとめた結果だという。性能や価格などを精査し、安全でコストパフォーマンスの良い製品を選んだり、全店分を一括購入することでコストを下げるといった視点もないようだ。

 そもそも、なぜ1店舗ずつ考えようとするのか。基本のセットを決めて、購入済みや設置場所がないなど、薬局ごとの事情がある場合に別案を考えるのが順序ではないか。店舗ごとに感染対策レベルが異ならないように、ビシッと必要なものをそろえ、安心して調剤できる環境を整えるのが本社の役割だろう。さらに予算に余裕があるならば、患者を隔離するスペースを設けるための設備や、現状はあまり出番がなくても個人防護具を各店舗に配備しておくなど、新型コロナとの長い闘いになることを見越した設備投資、物品購入を考えてほしいと思うのはボクだけだろうか。

 そうこうするうち時間はどんどん流れ、店舗ごとに「あれが必要、これが必要」と稟議(りんぎ)書が回ってきて、購入の許可を出し続け……。そして結局、経理部門が各店舗の帳簿の中から、感染対策の費用に該当するものを拾い上げて、申請書類を作成する作業に追われているという始末だ。20店舗以上の申請の取りまとめは膨大な作業となる。そこで、ボクまでも駆り出されて、書類のチェックを手伝うはめになった。

 慣れない作業に戸惑うボクに、経理課長は「この数字間違ってますよ!」と容赦ない。以前からうすうす感じてはいたが、ボクは事務処理能力が欠如している面があると思う。こんな膨大な資料の中から数字を拾い上げ、間違いなく積み上げていくなんて、ボクには到底無理だ。経理課長からの火の粉を避けながら、ボクは心の底で思った。「うちの経理にも、コロナ補助金を出してくれよ」と。(長作屋)