Illustration:ソリマチアキラ

 先日、知り合いの紹介で、ある薬局経営者が訪ねてきた。「折り入って相談がある」と言うから、薬局を売りたいという話に違いないと、ボクは内心ワクワクしていた。現れたのは、40代前半の若き社長とそのアシスタントの男性2人組。「こんちわーっす」と大きな声であいさつしながら、漫才師が舞台に上がるような勢いで登場し、「こんなカッコええ薬局の社長さんに会えるなんて、めっちゃうれしいですわ」と、やたら高いテンションでしゃべり始めた。そして、親の薬局を継いだこと、薬局は処方箋枚数が3000枚/月程度の2軒と診療所門前の1000枚/月程度の2軒があること、その他ヘルパーステーション、アロママッサージサロンを複数店舗経営していること——などを一気にまくしたてた。

 が、一向に本題を切り出さない。しびれを切らしたボクが「今日は薬局の売り買いの話なんですよね?」と水を向けたところ、なんと「うちが譲ってもらいたいくらいですわー」。どうやら店舗を増やす秘策はないか、あわよくば物件を紹介してもらえないかと訪ねて来たようだ。

 何もかもが驚きだった。このテンションの高さや軽さ、そもそもいくら知り合いの紹介とはいえ、通常はそんなことを聞きに来ないだろう。混乱したボクは、苦し紛れに在宅について聞いてみた。すると、「ここ最近、施設を取り出した」と言う。「取り出した」という言葉に違和感を覚えつつ、どうやって“取る”か尋ねたところ、「社長は結構、ひっくり返してくるんですよ」とアシスタントくん。ひっくり返す?「施設を取るのに、金使う必要はないんですわ。施設の人たちが喜ぶことしたらええんです」と社長。どうやらサロンの従業員が出向いて、施設スタッフに足裏マッサージを行うのだという。施設スタッフが「この薬局にお願いしたい」と言えば、運営会社はこれまでの担当薬局から切り替えてくれるのだという。ちなみに居宅療養管理指導費は算定していない。彼らの言葉から患者の姿は見えなかった。

 実はつい先日、ボクは開業医のA先生から、近くの薬局を引き継がないかと打診されたばかりだった。薬局オーナーが引退するが後継者がおらず、売りに出すというのだ。ただ、どう試算しても月商800万円にしかならない。面の処方箋が集まりにくい立地である上に、医師は既に70歳を過ぎている。うちの規模のチェーンが引き受けるにはリスクが高すぎる。

 その案件が頭をよぎり、「月商800万円の薬局はどう考えるか」と聞いてみた。すると、間髪入れず「ガンガン行きますよ!!」と威勢のいい答えが返ってきた。でも、この2人があいさつに行ったら、A先生は驚くだろうなあ。今の薬局は、熱心に先生に情報提供したり、処方提案しているという。A先生は「引き継ぐ薬局も、そういう薬局がええんやけど」と言っていた。あかん、あかん。先生はドン引くだろう。

 結局、その話はせずに2人は帰っていった。が、ボクは妙に落ち着かない気持ちにさせられた。散々、テンションが高いだの、軽いだの書いたが、実はボクだって若い頃はもっと軽やかに柔軟に世の中を渡っていたのかもしれない。ボクが年を取ってしまったのか。

 そういえば最近、勝負をしにいっていないな。うーん。若さってスゴイな……。しみじみと、そう考えさせられた一幕であった。(長作屋)