Illustration:ソリマチアキラ

 2021年末、8年ぶりに念願の新店舗がオープンした。在宅業務の拡大に忙しく店舗開発が進まなかったことが主な理由だが、実は8年前、思い入れたっぷりに作った店舗がうまくいかなかったことも少し影響している。

 ボクは、長年その地で業を営み、街の風景としてなじんでいる薬局を作りたいとずっと考えてきた。欧州の田舎では、教会を中心に街が広がり目抜き通りに薬局があることが多い。処方箋調剤も行うが、近隣に医療機関があるわけではなく、ひと昔前の日本の薬局のように、街の人たちの健康に関する相談の場となっている。

 そんな理想の薬局を作ろうと考えたのが8年前。当時、「これからは面の処方箋を集める時代だ」というような風潮もあったように思う。そこで、商店街の一角の比較的人通りの多い立地を選び、欧州の薬局をイメージして店を作ったのだ。待合を広めにしてOTC薬や薬局製剤、こだわりの健康食品やグッズをそろえた。薬の相談会を行うなど、処方箋を持たない人たちに訪れてもらおうと考えた。

 近隣には、薬局の裏側100メートルほどの場所にA内科医院があるのみ。門前薬局はなく、1日100枚程度の処方箋が地域に散らばっているとの情報を得ていた。その医院の処方箋を30枚/日程度応需して、物販をきっかけに面の処方箋を40枚/日程度集めて、在宅を少々といったモデルを描いた。

 しかし、外来患者が思うように増えない。在宅業務に力を入れようと地域でアピールしたところ、少しずつ在宅処方箋が増えてきた。喜んだのもつかの間、今度は外来患者の数が減ってきた。店舗は間口が狭い(欧州の古い街にある薬局は入り口が狭い)。調剤室は奥まったところにあり、在宅の薬剤調製に忙しくなると、来局者に気付かないこともしばしば。何より、人影が見えない薬局に人は入ってこない。

 結局、年間600~700万円ほどの赤字となり、店を閉めざるを得なくなった。敗因は、A内科医院の発行処方箋枚数の読み違い(実は60枚/日程度だったのではないか)と、“調剤薬局”らしからぬ外観だったように思う。実際、来日したばかりの英国人が生まれ育った街にある薬局にそっくりだと入ってきたことがあったほどだ。さらに言えば、今でいう健康サポート機能を備えて、A内科医院の処方箋が少ない分を物販の売り上げで賄おうとしたが、それも決して簡単ではなかったのだ。

 その薬局は、入り口に3段ほどの段差があった。あまりにも悔しいから、「段差がいけなかったのだ。薬局はバリアフリーでなければならない」と自分とスタッフに言い聞かせ、薬局を閉めた。

 今回、8年ぶりに作った薬局は、前回同様に下町の商店街の物件だ。外装はスタイリッシュだが誰が見ても調剤薬局だと分かるデザインにした。メインとなる処方箋発行医療機関はないが、近隣に当社の薬局があり、そこは患者があふれている。10数年この地で薬局を営んできて、地域の人たちに名前が知れ渡っている。物販は必要最小限にして、処方箋を持つ人の薬学管理に力を入れるつもりだ。真面目にやれば地域の人たちから信頼され、いずれ頼りにされる存在になり、街の風景になじんでいくだろう。今回は入り口に段差がない。言い訳はできないのだ。(長作屋)