Illustration:ソリマチアキラ

 先日、ある社員から「独立開局を考えている」と相談された。しかも力を貸してほしいという。20年ほど前にボクが面接して採用した男性薬剤師だ。面接のときに「どんな人生送りたいの?」と聞いたら、「ギターを弾きながらのんびり暮らすような人生」と返ってきて面食らったのをよく覚えている。面接の場でそう公言することに驚いたのだ。当時、確かに「君の薬剤師人生をボクに預けてみないか」と言ったが、おいおい、独立の手助けまでするとは言っていないよ。

 聞くと、既に開局支援会社から、1日30枚程度の処方箋応需が見込める案件を紹介されているらしい。ならば薬局の売り上げは月500万~600万円程度。自身が薬剤師で真面目に働けば、年収1000万円程度にはなるだろう。しかし、彼は迷っているという。「時期も時期なので様子を見ている」と言うのだ。

 とんでもない!独立したいなら今が絶好のチャンスなのに!

 ボクがそう考える理由の一番はリフィル処方箋がついに制度化されたことだ。日経メディカルOnlineの調査によると、勤務医の3人に1人はリフィル処方箋に賛成している。リフィル処方箋の発行が進むと、患者は生活圏内の薬局を選ぶ機会が増えるだろう。これまでは、いかに医療機関に近い立地を得るかの戦いであり、勝つためには多額の資金が必要だったが、立地の法則が崩れ、少ない資本でも勝ち目が出てきたのだ。

 コロナ禍で空き店舗が増えているのもチャンスの理由だ。今薬局を作るなら住宅地が近くにある商店街の中がいい。門前でなくていいが近くにクリニックがある場所を選び、そこからの処方箋を1日当たり20枚程度、それ以外の処方箋も20枚程度応需するのが目標だ。さらに個人在宅の患者を10人ほど担当できれば、経営は安定する。

 ただし、耳鼻咽喉科や眼科、小児科の近隣はやめた方がいい。処方箋単価が低いし、小児の処方箋は薬剤調製に手間がかかり薬剤師1人体制では難しいからだ。しかも他科の処方箋が持ち込まれる機会が少ない。その点、整形外科は処方箋単価は高くないが、薬剤調製に時間がかからない。高齢者が多く、患者の心をつかめば他医療機関の処方箋も持ち込んでもらえる。

 家賃の坪単価は1万円強で、少し余裕を持たせて20坪くらいを確保したい。社員を雇うなんて考えてはいけない。自分が管理薬剤師として薬局の顔になる。在宅訪問も引き受けて、頼れる街の薬剤師になるのだ。

 個店の弱点は、バイイングパワーに乏しく薬価差益が稼げないことだが、昨今では医薬品を共同購入してくれるサービスがある。うまく利用すればある程度の薬価差益が見込める。米国の金利引き上げがニュースになっている。日本もいずれ上がっていくだろう。開局資金を借りるならその前だ。今のうちに固定金利で借り入れておきたい。

 そういえば、某日経DIの1月号は開局特集だった。そう、今が独立のチャンスなのだ!

 ただし、開局したら「ギターを弾いてのんびり」の夢は捨てて、本気で地域のために働く気持ちが必要だ。地域医療に貢献する薬局を作ってくれることを期待したい。でも、人の手を借りようなんて甘い考えでは、誰かに乗っ取られちゃうぞ。個人事業主になるんだから気を引き締めなきゃ。(長作屋)