Illustration:ソリマチアキラ

 A皮膚科クリニックは、多い日には1日150人を超える患者が受診する超人気クリニックだ。院長のA先生とは15年以上の付き合いだが、2年ほど前から定期的にゴルフに誘われるようになった。しかし、A先生は非常に無口な上に感情を表に出さない人で、ボクとのゴルフが楽しいのかどうかがよく分からない。とにかく謎めいた人なのだ。

 そんなA先生が、ゴルフ後に2人になったときに、珍しく自分から話を切り出してきた。いわく「先月は会計月だったが、この1年、よく働いて、収入がそれなりにあった。ただ、この調子で働いていたら過労死してしまいそうなので、少し仕事をセーブしようと思う」と言う。A先生がそんな風に自分から話してくれたことをうれしく思いつつ、ボクは別のことを考えていた。

 実は、A皮膚科クリニックとは裏腹に、隣の長作屋薬局はもうかっていない。というのも、駅前の繁華街から遠く、周りに医療機関はなく集中率は90%を超えていて調剤基本料3-イ(21点)しか取れない。Aクリニックは皮膚科に加えて形成外科も標榜しているが、患者単価が低い上に、軟膏などの調製に手間が取られ人件費がかさむ。

 ボクは、近隣に他科のクリニックを誘致して医療ゾーンができれば、薬局は経営的に楽になるし、地域にとってもいいとかねてから考えていた。幸いこのエリアは区画整備された地区で土地は余っている。そう思いながらも、感情が読めないA先生に対して、どう切り出せばいいのか分からずにいたのだ。それが、今回、先生からそんな話をしてくれた。これはチャンスだ!

 そこで、次のゴルフの後、思い切って「先生が業績が良かったと話していたので、翌日確認してみたら、薬局は利益がほとんど出ていなかった」と話してみた。A先生は少し考え込んで(この間があまりにも長い)、「どういう薬局だと利益が上がるの?」と聞いてきた。そこで、ボクは調剤報酬の考え方や薬局の利益構造を説明し、このような地域であれば、近隣にクリニックを誘致し、医療ゾーンを作るのがいいと話した。

 長作屋では内科と精神科のクリニックの近隣に薬局をつくり、その後、そのエリアの地主さんと一緒に泌尿器科、皮膚科、眼科、整形外科を誘致し、その一帯を医療ゾーンに仕上げたことがある。地主さんは今や、毎月何百万円という家賃が入っている。診療科が集まっていれば患者も集まるし、医療連携も容易となる。先生さえ嫌でなければ、近隣に建物を建てて開業したがっている医師を誘致したいのだが──。そう話しながら、A先生がどんどん前のめりになってきているのをボクは感じていた。そして、「駐車場となっている場所に私がビルを建てて、クリニックを移転させて、他科を誘致するのはどうか」とまで言い出した。おまけに「建築会社はどこがいいのか」などと、やけに具体的な話をしてきた。

 クリニックがもう1軒できれば御の字と思っていたが、まさかこんな展開になるとは!!実はボクはゴルフが下手で、ラウンドがつらいと感じることもあったが、無口なA先生がせっかく誘ってくれているのだからと、雨にも負けず風にも負けず頑張ってきた。それが、芽が出て花が咲くかもと思うと急に次のゴルフが楽しみになってきた。経営者のココロは常に単純だ。(長作屋)