Illustration:ソリマチアキラ

 3月に母が亡くなり長男であるボクは手続きに忙しかった。人が亡くなった後の手続きはやけに多い。10数年前に父を亡くした時も手続きを一手に引き受けたが、その際は金融機関や役所の窓口を何カ所も渡り歩き、何時間もかかった。当時の市役所は古い建物で、薄暗い廊下をあっち行き、こっち行き、階段を上ったり下りたり、苦労したのを覚えている。そこでボクはその日、時間に余裕を持たせて、覚悟を決めて市役所に向かった。

 ボクの故郷の市役所は数年前に近代的な建物に建て替わっていた。玄関を入ると総合受付があり整理係に、3番の「おくやみ窓口」に行くよう指示された。「へぇ~おくやみ窓口かぁ」と思いながら、窓口に行き「先日、母が亡くなりまして……」と伝えると、40代前後の女性の担当者は「このたびはお悔やみ申し上げます」と丁寧に頭を下げてくれた。「おお、さすがおくやみ窓口だ」と妙な感心をしている間に、担当者は必要な手続きが一覧となったレジュメを出して、説明し始めた。「今日は、ここからここまでとこれの8つの手続きをしていただきます」と。そして驚くことに「それぞれの窓口の担当者が来ますので、ここで全ての手続きをしていただけます」と言うのだ。え?上ったり下りたり、行ったり来たりしなくていいの?ここに座っていて全部できるの?

 そんなボクの戸惑いをよそに、その担当者は「では、まず1番目の印鑑登録に関する手続きは私が担当させていただきます。これらの書類はお持ちですか」とテキパキ進めていく。終わると別の担当者が出てきて次の手続きをしてくれる。そう、本当にそこに居ながらにして手続きが済んでいくのだ。

 さらに驚いたことに、3番目の手続きが終わった後に出て来たのは5番目の担当者だった。いわく「4番目の担当者は今、別件対応中なので、5番目の手続きを先にさせていただきます」とのこと。なんと、なんと!偏見かもしれないがボクが知っている役所は、手続きは何があっても順番通りに進める所であり、少なくとも以前は担当者の手が空くまで待たされた。ボクは、大いに面食らった。

 唯一、年金の手続きは年金事務所に行かなければならなかったが、その場で電話して予約を取ってくれるという親切さ。おかげで想定していた時間の半分以下で市役所を後にすることができた。ありがたいを通り越して、感動すら覚えるレベルだ。

 そしてボクは、座ったまま次々に手続きが進められていく最中、ワクワクしていた。「これ、薬局で使えるゾ!」と。

 日本中のほとんどの薬局では、待合から投薬口まで患者を移動させるスタイルだ。薬剤師が待合に座る患者の所に出向いて服薬指導をする薬局もあるが、プライバシーが守れないなどの問題もある。そこで発想の転換だ。患者は待合ではなく最初から投薬口に座ってもらい、そこに薬剤師が来て服薬指導する。次に事務スタッフが来て会計をする。そう、患者にとっては最初に座った場所から移動することなく全てが完結する薬局だ!ちょうど新たな出店の予定があり準備に入ろうとしているところだった。よし、このコンセプトを取り入れれば久々に新しいことができる(日経DIに取材してもらえるかもしれない!)。母が置き土産をしてくれたようで、なんだかうれしくなった。(長作屋)