イラスト:畠中 美幸

 A整形外科診療所は地方に立地する診療所で、30人程度の職員が働いている。職場内は比較的和気あいあいとしており、職員は伸び伸びと仕事をしている。そうした中、職場内の規律が乱れるような出来事が診療所内で発生した。

 ある日、職員Bが掃除をしている際に、診療所のゴミ集積場に見慣れないゴミを発見した。乾電池の入ったビニール袋や、ビンがまとめられた袋、さらには使えるかどうかわからない液晶が割れたタブレット端末が捨てられていたのである。すぐに職員Bは、それらのゴミが診療所内から出たものではないと理解し、収集業者が誤って持っていかないように移動させ、院長に報告した。

家庭ゴミの持ち込みを認めた職員

 院長は、診療所のゴミ集積場が職員のみ出入りできる場所にあることから、患者や近所の人が捨てたものではなく、職員が意図的に持ち込み廃棄したと判断し、少し様子を見ることにした。

 すると後日、また家庭ゴミが診療所のゴミ集積場に捨てられており、翌日の朝礼で「誰が捨てたのか」と職員に尋ねたものの、誰からも名乗りがなかった。そこで、ゴミ集積場近くの防犯カメラを確認したところ、理学療法士として勤務しているC男が家庭ゴミと思われる袋をゴミ集積場に捨てに来ている姿を見つけた。C男を呼び出して問いただしたところ、あっさりと家庭ゴミを捨てたことを認めた。

 C男は一人暮らしをしている。本人によると、自治体指定のゴミ袋が高い上、タブレット端末や乾電池は捨て方が分からず、職場のゴミ集積場に持ってくれば収集業者が回収をしてくれるだろうと思ったとのことであった。

 確かに、自治体によっては廃棄方法が複雑で、長年住み慣れていてもわかり難かったりする。また、回収に伴う費用の高騰によりその費用がゴミ袋に転嫁され、ゴミ袋の値段が以前より高騰しているというのは、他の地域にも見られる現象である。ゴミに関する費用の高騰が自治体の首長選挙の争点となる地域もあり、日常生活とゴミの問題は身近である一方で、深刻な問題となることもある。実際、そうした地域においては、ゴミの不法投棄が問題になることもあり、今回の事例のように職員が家庭ゴミを持ち込み職場内に廃棄するケースは、全国各地で程度の差こそあれ発生しているのが実情である。

 院長はC男に対して注意をしたが、「他の職員も同様にやっており自分だけが悪いのではない」といった態度を示した。これに対して院長は「他に捨てたのは誰か」と聞いたものの、C男は無言を貫いた。とはいえ、そのまま問題を終わらせるわけにもいかないので、乾電池などの廃棄方法を伝え、捨てられたゴミは自宅に持ち帰らせた。C男以外の職員も家庭ゴミを持ち込み、廃棄しているならば看過できないと思った院長は、後日、顧問の社会保険労務士に一連の出来事について伝え、今後の対策を検討した。

張り紙を掲出、就業規則の見直しも

 社労士からは、本来生じることがないゴミ収集費用が発生すれば、その費用は職員に対して負担をさせることができると助言を受けたが、むしろ今後同様のことが発生しないようにしたいと思い、相談を重ねた。

 社労士への相談後、院長は誰がゴミを廃棄したかという点は伏せ、診療所のゴミ集積場に乾電池や使用不可のタブレット端末などの家庭ゴミが捨てられていたことを職員に伝えた。今後、こうした行為があった場合には、何らかの懲戒処分を行う可能性があること、本来発生しない費用負担が生じた場合、その額を全額負担してもらうことを併せて伝えた。むろん、懲戒処分を行うに当たっては、その根拠が就業規則に明確に定められている必要があることから、就業規則についても見直しを行う点も伝えた。

 その後、A整形外科診療所のゴミ集積場には、「家庭ゴミを持ち込まないこと。持ち込んで本来発生しない費用が発生したら、廃棄者に全額負担をしてもらいます」という張り紙が貼付された。今回の事件以降、家庭ゴミを廃棄する職員はいなくなったという。

(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)


著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。