Illustration:ソリマチアキラ

 部下の仕事を1から10まで把握しないと気が済まない管理職がいる。勝手なイメージだが薬剤師にはそのタイプが多いように思う。報告、相談、連絡、いわゆるホウ・レン・ソウを重んじ、「聞いていなかった」ことを極端に嫌がる。

 ボクは、任せられることは極力、人に任せたいタイプだ。「任せる」と言ったからには、相談や報告は最小限でいい。時々、「むちゃぶり」だとか「丸投げ」だとか言われるが、誰かの指示の下で仕事をしていては、いつまでたっても独り立ちできない。自分がやらなければ分からないことはいっぱいある。

 1日でも早く引退できるように、若い頃から思ってきたボクは、昔から後進の育成に余念がない。そして、ここ4、5年は40代の若い役員たちが会社を運営してくれている。役員には常に「ボクが元気なうちに何でも自分の責任でやってみろ」と言っている。管理者が言い出したことは、できるだけ反対しない。対外的なこと、例えば患者さん、処方元、取引先が関係することは、ボクが知らないと責任の取りようがないので教えてくれと伝えてあるが、その程度だ。そして彼らは立派にやってくれている。まだまだ経験を積む必要はあるだろうが、今の状況には満足している。そのつもりだったが……。

 最近妙に心が落ち着かない。どうも、会社の中でボクの知らないことが増えている気がするのだ。例えば、先日、実家を継ぐために退職した元社員Aと同期の薬剤師たち、役員数名の総勢10人近くが飲み会を開いていたのだ。

 その日、ボクは役員Bと打ち合わせをした。最後にBが「Aさんが来るので飲みに行くんですが、社長もどうですか」と声をかけてくれた。Aは本社と同じ建物にある薬局の管理薬剤師だったこともあり、知らない仲じゃない。何よりボクが面接をしてボクが採用した薬剤師だ。思い入れがある。その日、ボクは別件があったのでお断りしたが、声をかけてもらってうれしかった。

 さらに終業間際、役員Cに軽い打ち合わせをしたいと声をかけた。するとCは「明日でもいいですか、今日は早めに会社を出ます」と言う。仕事熱心なCは、ボクが声をかけると断ることがほとんどないので「珍しいな」と思いつつ、「ん?待てよ、Cの用事って……」。その後、会社を出て駅に向かう道すがらにある居酒屋の前を通りかかったら、Cを含む社員・役員がAを囲んで楽しそうに飲んでいる姿が見えた。

 それだけじゃない。その週末、役員らが社内の有志を集めてゴルフの練習会を行ったらしい。皆で大会出場を目指すという。ボクは下手だし、練習なんてしたくない。全然いいんだけど、でも一言、誘ってくれてもいいじゃないか。

 薬局のコンセプト変更のプランが進んでいたり、昔、勤務していた社員が集まる会の話も進んでいるらしい。

 繰り返しになるが、ボクはいつまでもボクが何でも把握しているようでは駄目だと思っている。今の役員が自分で考えて、事業を継承していってくれればいい。事業運営のことはいい。だけど、飲み会だけは……。

 そうか、知らないと気が済まない管理職は、部下の仕事ぶりを心配しているわけではなく、知らないと寂しいだけなのか……。秋の夜長に、独り酒して、そんなことを考えるボクだった。(長作屋)