トラブルの経緯

 やりがいや充実感を持ちながら仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、多様な生き方を選択・実現しようとする「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」。その必要性が強く叫ばれるようになり、まだ10年にもなりませんが、言葉や概念は一般社会にすっかり浸透した感があります。

 ワーク・ライフ・バランスの実現のためには、自由に利用できる年次有給休暇の制度がとても重要です。しかし、有給休暇の詳細なルールをきちんと決めて、職員に周知できている病医院は、意外と少ないかもしれません。

 先日、あるクリニックから、こんな相談がありました。

 こちらのクリニックは木曜と日曜が休診日です。就業時間は、木曜以外の平日4日が8時間、土曜日は4時間。職員の大部分は主婦で、小学校に通うお子さんを持つスタッフも多く在籍しています。

 子どもが小学生だと、学校行事で有給休暇を取得することも多いので、このクリニックでは半日休暇の制度を設けています。例えば、平日午後の授業参観に出る日は午前中のみ勤務して、午後を有給休暇(半休)とすることが可能な制度です。特に明文化したり改めて周知したりといったことはしていませんでしたが、これまで問題が起きたことはありませんでした。

「土曜は4時間診療だから半日休暇ですよね!」
 さて、今年5月のこと、運動会シーズンの到来に伴い、小学生の子どもを持つ職員から「土曜日に運動会に行きたいので」という理由で有給休暇の申請がありました。有休の申請自体は珍しいものではありません。クリニックの人員にあまり余裕はないものの、子どもの運動会という理由であれば、院長としても異論はありません。

 しかし、この申請には、いつもと一つ異なることがありました。「土曜日の4時間しか休まないのだから、半日休暇ですよね!」と、半休として申請されてしまったのです。これまで、クリニックの慣例として、土曜日に有休を取得する場合は1日として扱ってきましたが、それを明文化したり確認したりしたことは、思い返してみればありませんでした。

 そもそも、労働基準法において、有給休暇は原則として1日単位で与えることになっています。職員の利益を図るため、例外として半日単位(時間単位の場合は労使協定が必要)で与えることができますが、こちらのクリニックでは、土曜の1日の就業時間は元から4時間ですから、当然1日分を消化したと見なします。

 また、このクリニックで、土曜4時間を1日分の有給休暇として取り扱ってきた背景には、法律に則るというよりも職場内の事情がありました。

 それは、土曜4時間の休暇を半日分の有休消化として認めてしまうと、皆が土曜に有休を取りたがるようになり、人員不足が生じかねないということです。診療日を丸一日休んで、有休消化は半日分で済むならば、人は「お得」と感じるのかもしれません。