新規開業から間もないクリニックを除けば、院長の片腕ともいえるリーダー格の古参職員が必ず1人はいるもの。こうしたリーダー職員は、知識と経験が豊富であり、診療だけでなく院内の様々な業務において中心的な役割を担っていることから、院長の信頼も厚い。そのため、新たに入職した職員の指導係を任されるケースも多くなっている。

 一方で、産休や退職者による人員不足を補うため正職員・パート職員を新たに採用した際、OJTを含め、こうしたリーダー職員が教育指導を行うことになるが、十分に業務を習得する前に、新人が短期間で退職してしまうことがよくある。

 せっかく優秀な人材と巡り合い、採用にこぎ着けたのになぜ……という院長の悩みを耳にすることも少なくない。「なぜ新人が育たないのか分からない」との疑問は常に抱えているが、解決策が見付からないというのが本当のところだろう。こうした事例において、信頼しているリーダーが原因で、新入職員が居着かなかったり育たないというのは、比較的よく見られるパターンである。

トラブルの経緯

 デイサービスなどの介護事業も手掛ける医療法人Aクリニックは、内科・消化器内科を標榜する無床診療所。診療所のほか、訪問看護、在宅介護、デイサービスの各部門があり、看護師やケアマネジャー、理学療法士、介護福祉士など、30人ほどが勤務している。

イラスト:畠中美幸

 当初は外来のみの診療所を運営していたが、在宅診療、訪問看護、訪問介護、デイサービスと順に事業を拡大し、院長の目が日常的に届かない部門・職員も出てきたことから、在職年数の長い職員をリーダー格として主任に任じ、業務に関わる指示や後輩スタッフの指導を任せることにした。

 院長は各リーダーから業務状況とスタッフ個々の様子について報告を受けており、その点では運営上に大きな問題はないと判断していた。

 一方で、人員不足による業務多忙を軽減するために新たに職員を採用しても、なかなか定着せずに短期間で退職してしまうケースが続いており、頭を悩ませていたのである。

リーダーは「新人の物覚えが悪い」と言っていたが…
 ある日、4カ月前に入職したデイサービス部門のスタッフから退職の申し出があった。院長は「また、続かなかったのか」と思いながら、リーダーに働きぶりを尋ねたところ、「彼女は物覚えが悪いし、要領も良くないのに、努力しないタイプ」との回答だった。しかし院長は、採用活動に時間と費用をかけるよりも、そのスタッフが退職を翻意してくれた方がよいと思い、本人との面談機会を設けて、今後の努力を促して慰留してみることにした。

 スタッフ本人と面談したところ、非常に真面目な受け答えで仕事への意欲も感じられたため、このまま働き続けてほしいと伝えたところ、スタッフは口ごもりながら「この環境ではちょっと難しい」と答えた。

 スタッフ本人との面談で聞き出したのは、リーダーが仕事をほとんど教えておらず、新人は時間がたっても仕事に慣れないという現実だった。

 院長に対するリーダーの報告では、退職する新人スタッフはどの人も熱意や意欲に欠け、努力をしたがらないタイプだと聞いていたが、実際にはリーダーが排他的な態度を取っており、新入職員を受け入れないような雰囲気があるということだった。

 院長は、これまで報告されていた状況とあまりにギャップが大きい内容だったことから、事実を把握した上で適切な対応をしなければならないと考えた。