法律的に義務付けられてはいないものの、多くの企業で支給されている賞与。年2回の賞与支給を制度化している病医院も多くあります。
さて、賞与といえば、夏・冬の支給時期には恒例ともいえるトラブルがあります。退職(予定)者の賞与をどう取り扱うかという問題です。
先日はこんな相談を受けました。6月末に退職した職員が7月賞与の支払いを請求してきたというのです。このクリニックでは、7月と12月の年2回、賞与を支給しています。退職した職員から賞与の支払いを請求されたことは、これまで一度もなかったため、事務長は慌てていましたが、まずは落ち着いて就業規則を確認してもらうようお願いしました。
このクリニックの就業規則では、賞与について次のように定められていました。
賞与支給月(賞与計算期間)
7月(12月1日〜6月30日)
12月(7月1日〜11月30日)
6月末に退職した職員は、賞与計算期間の末日まで在籍したのだから、退職後でも賞与がもらえるはずと主張したそうです。しかし上記の通り、就業規則に賞与支給の要件として「支給日に在籍していること」が明文化されているため、ルール上は賞与を支給する必要はありません。
7月の支給日まで勤務すれば賞与の支給を受けられることを、クリニック側が説明し、職員が退職前に把握できていたのかという疑問はありますが、いずれにせよこのような「支給日在籍要件」が明記されているケースであれば対処しやすくなります。
また、やや珍しい事例ですが、賞与の支払いが遅れたために事務長が判断を迷ったケースもありました。
その病院では、毎年7月中旬に賞与を支払ってきました。就業規則にも7月支給が定められています。ところがその年に限って、事務長が賞与支払いの決済を受け忘れたまま、理事長が海外視察に旅立ってしまったそうです。
当然、事務長の判断で勝手に賞与を支払うことはできないので、支給日を遅らせて8月上旬に支給することになりました。そこで問題になったのが、7月末に退職する職員への賞与支給だったのです。
この病院の就業規則には、賞与計算期間全てに在籍すること、支給日に在籍していることの2点が賞与支給の要件として定められていました。杓子定規に解釈すれば、8月の支給日に既に退職している職員には、賞与を支払う必要がないことになります。
資金繰りなどやむを得ない事情で支給が遅れる場合を想定すれば、賞与に関する条文の支給日在籍要件を、より細かく「実際に支給される日」に限定することで、退職者への不支給の対応ができる場合もあります。ただし、単に院内の事務手続きが遅れた場合や、何らかの事情があって恣意的に支給を遅らせる場合には、就業規則に支給日在籍要件の定めがあっても支払うべきでしょう。この事案でも、退職後にはなったものの賞与を支給しました。