今回の教訓

 診療所では、せっかく良い人材を採用しても、何らかのきっかけで簡単に退職してしまうことが往々にして見られる。「採用してあげている」「自分の思い通りに使いたい」という感覚は、今の時代通用しない。問題が生じたときに、院長が「これくらい大したことない」と思っていても、職員側は院長が想像している以上に深刻に捉えていることが多い。

 特に有資格者の職員は、比較的転職をしやすいこともあり、集団退職に至る例がしばしば見られる。権利意識が強いスタッフが、他のスタッフを巻き込んでいくことは決して珍しくないので慎重な対応が求められる。

 雇用条件を巡るトラブルは多いので、次のような点に注意していただきたい。
(1)雇用条件を記載した書面を見せ、理解しているかどうか確認しながら説明する。
(2)採用面接では、採用側の説明ミスや応募者の聞き間違いが起こりやすいため、面接は複数で実施し記録を取る。
(3)病院と診療所では、勤務体制や雇用条件が異なるので、特に病院経験者にはその点をよく理解してもらった上で採用する。
(4)採用から間もない段階で雇用条件変更の交渉をすると退職につながりやすいので、安易に条件変更しない。
(5)勤務変更に関するルールを明文化しておく。
(6)退職に際し同僚を巻き込むことが分かっても追わない。

 診療所の雇用条件は施設によって様々であり、採用するためのその場限りの条件を提示しているケースもある。雇用条件をきちんと作成し明文化しておくことがトラブルの防止につながる。

 また、連鎖反応的な退職が生じることのないよう、職員たちと普段からコミュニケーションを取っておくことも欠かせない。ただし、不満の多いスタッフや、考える方向性の違うスタッフが退職を希望したのであれば、たとえ同僚を巻き込む形であっても、無理して追わない方が得策だろう。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
原田宗記(株式会社宗和メディカルオフィス代表取締役)●はらだ むねのり氏。1957年生まれ。医療法人の事務長、部長を経て1996年、宗和メディカルオフィス設立。医療機関や介護施設の開業、運営コンサルティングのほか、診療所の事務長代行業務を手掛ける。医療法人役員として医業経営にもかかわる。