トラブルの経緯

イラスト:畠中美幸

 今回ご紹介するのは、第三者継承で診療所を開業した循環器内科のA先生のケースだ。A先生は、「何事も効率良く」というのがポリシー。集患がうまくいかず経営が厳しくなるリスクを回避するため、ある程度の患者がついている診療所の承継を当初から考えていたという。

 承継したのは、1日35人程度が来院していた診療所だ。初期投資は床の張り替えと医療機器の多少の入れ替えを行った程度で、開業資金総額は運転資金も含めて1500万円ほどで済んだ。

 院長交代に伴い、以前のスタッフは全員退職。看護師1人、事務職員2人を新規採用した。看護師は明朗活発なタイプの20歳代後半のBさん。事務はおとなしそうな30歳代前半のCさんと、融通の利きそうな40歳代前半の主婦Dさん(扶養控除範囲内でのパート勤務)。この3人でスタートすることになった。

 内装のリニューアルも兼ねて開業10日前からは休診。ある方の紹介で、この頃から筆者が関わるようになった。

 事務職員にはレセコンの講習を行ったほか、以前からの患者さんにスムーズに対応できるようにするため、前スタッフに引き継ぎをしてもらった。看護師は医療機器の操作方法を含め、診察手順に従って院長と準備。各自の技量のチェックが済み、開業後の勤務表も出来上がり、大きな問題もなく準備が進んだ。

勤務条件の変更に不信感募らせる
 後はシミュレーションで受付、診療、検査、会計までの流れを再確認するのみ、という段階となった開業3日前の夜、A先生から突然、電話連絡があった。「看護師Bさんの態度がどうもおかしい。何か不満があるようだ」。「何かトラブルありましたか?」と尋ねたが、「特にないけど……」とのことだったので、「明日Bさんに話を聞いてみます」と伝えて電話を切った。何が発生したのかよく分からないが、嫌な予感がした。

 翌日、A先生に状況を確認した。「業務手順で注意したが、それが面白くなかったようだ」とのことで、「果たしてそれだけだろうか?」と思いつつBさんを呼んで話を聞いた。

 「もうすぐ開業ですが何か問題はありませんか」と確認すると、「看護師は私1人だけですか」と聞いてきたので、「忙しくなったらパートを増やそうと思っています」と答えた。するとBさんは、「毎日私だけが最後までの勤務になりますよね」と尋ねてきた。「様子を見て早上がりの日を作ろうと思っています」と答えたものの、何となく釈然としない顔付きをしている。どうも勤務条件に不満があるようだ。

 ここでBさんが、「面接時にA先生から聞いた条件と少し違うのですが」と言うので、「どういう話だったの?」と聞いてみたところ、「開業時は患者数が少ないから、試用期間中は時給でもよいですか?」とA先生が交渉してきたのだという。Bさんが「収入が減るので困ります」と答えたら、院長は「分かりました」とあっさり了承したらしい。どうもそのことがきっかけで、Bさんが不信感を募らせているようだった。