トラブルの経緯

イラスト:畠中美幸

 A診療所では、定期的に職員に集まってもらってミーティングを開催している。

 外部の研修に参加した職員が何を学んだのかを同僚たちにフィードバックする研修もあれば、事務部門と看護部門の連携強化に向けて何をしなければならないのかといった打ち合せ、さらには患者からの苦情対応やインフルエンザ時期の業務の段取りなど、テーマは多岐にわたる。

 院長は、業務連絡やスキルアップといった面だけでなく、職員間のコミュニケーションを図る機会としてミーティングを重視している。だが、そうしたミーティングの開催を重ねている中で、ある職員が何かと理由をつけて参加しないようになってきた。

 職場の和が乱れることを懸念した院長は、その職員を呼び出して注意した。その後は参加するようになったが、出席しても積極性がまるで見られず、発言をしない上に常に不服そうな顔をしている。院長が「何か不満があるのか」と問いただしても、明確な答えはない。そんなこともあって、院長とそのスタッフとの関係がギクシャクするようになり、やがて本人は退職してしまった。

 後に同僚たちの話を聞いてみると、その職員は、どうもミーティングの「対価」に不満を持っていたようだ。

 A診療所では、2週間に1回程度のペースで、勤務時間終了後にミーティングを開催している。参加への対価は分かりやすい。1回当たり500円を支給するという方法だ。院長としては、固定額にすればダラダラと長い時間を掛けてミーティングを開催することが減り、効率的に終わらせてくれるであろうという期待を持っていたのだが、実際には議論が長引くことも多かったという。そのため、退職した職員に限らず「これではやっていられない」と考える職員が少なくなかったことが分かってきた。