今回の教訓

 就業時間以外の時間帯にミーティングを開催する際、「1回当たり○○円支給」という定額方式を取っている医療機関は少なくない。だが実際には、A診療所のように、院長の期待とは裏腹にミーティングがだらだらと長引くこともよく見られる。そのようなケースでは、「非効率な進め方をしている職員に問題がある」と院長が考えている傾向がある。

 定額支給すること自体に問題はないのだが、ミーティングの時間などに比して対価が低すぎると、A診療所のような職員の離職といった問題を惹起させるだけではなく、労働基準監督署から是正対応を求められることにもなりかねない。労基署の調査によってそうした実態が明らかになり、「未払い残業」と判断されれば、賃金の請求権が2年間であることから過去に遡及して割増賃金を対象者に支払う必要が生じる。

 実際、定額支給のミーティングに関して、労基署による調査で未払い賃金の支払いを含む是正対応を求められた医療機関は相当数あるものと考えられ、残念ながらその多くが、職員からの通報によるものである。

就業時間外なら割増賃金の対象に
 労基署の監督官も守秘義務を徹底しなければならないので、誰がいつ通報してきたかを明かすことはない。最近は、事前情報によってミーティングの終了時刻に労基署の監督官がやって来て、当日の勤怠の記録はどうなっているのかを職員に直接確認しながら過去についてもあれこれと確認し、労働の実態を把握するケースもある。仮に院長が「タイムカードへの記録がない」などと主張しても、職員への聞き取りの内容次第では不利な立場に立たされる可能性があることに注意をする必要がある。

 そもそもミーティングについては、その開催が業務関連性の強いものであり、経営者が参加を半ば強制するのであれば、その時間帯は労働時間ということになる。

 労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」という考えが最高裁判例(三菱重工業長崎造船所事件、2000年3月9日判決)で確立されている。そのため、「指揮命令関係」の有無がまずは判断のポイントとなるが、A診療所のケースのように不参加者に対して注意がなされるということは、指揮命令があるもの(=労働時間)と考えなければならない。

 従って、参加の時間に対しては、就業時間外の開催であれば正しく計算された割増賃金を支払う必要が生じる。あるいは、A診療所のように定額を支払うのであれば、それが残業の対価であることを明確に伝えると同時に、本来の残業を行ったとした場合に計算された割増賃金以上の金額となっていなければならない。